闇夜に散った白ブリーフ
次元大介は男として究極の選択に迫られていた。
さっさと五右ェ門を裸にひん剥いて、下らないゲームを切り上げようというルパンの目論見は外れ、クソ寒い中を日暮れまでカードをめくり続けるハメに陥り、そして今、次元に残された着衣は白いブリーフ一枚と馴染みの黒い帽子。
ルパンにツーペアを出され、彼はその二つのどちらかを手放さなければならなかった。
この二つは、どちらも彼の重要なこだわりアイテムであった。
白ブリーフは一流スナイパーの証。
かのデューク東郷も白ブリーフを愛用している。こいつはおいそれと手放すわけにはいかない。
そして彼の頭にしっくりと馴染んでいる黒いソフト帽。
海に潜る時も、地中でヘルメットをかぶって横穴を掘る時も、かたときも手放さぬクールダンディな男のこだわりアイテム。
一部では、帽子の下はハゲなのではないかとか、それがないとマトモに銃が撃てないのではないかとかの中傷もあるが、言いたい奴には言わせておけば良い。
男のこだわりがわからない奴はクソだ。
しかしこの二つのどちらかを、今、手放さなければならない。
このアイテム、重要さを比べられる物ではないというのに。
例えばカルテットで、ベースとピアノのどちらが重要か、と問うようなものだ。
または、前述のデューク東郷とシャア・アズナブルとどっちが強いかというようなものだ。いや、後者の例えは少々不適切であろうか……。
「おい、次元、アッチの世界に行ってないで早くしろよ」
ルパンの声が彼を現実に連れ戻した。
そうだ、男の生き様の選択に迫られていたのだった。
さあ、どうする次元大介。
ここで帽子を捨てれば、なんだかんだ言ってフルチンになりたくない肝っ玉の小さい男として、一方白ブリーフを捨てれば、フルチンに帽子だけをかぶった認知症の老人のようなガンマンとして、後世まで語り継がれる事であろう。
こんな事だったら、最初に靴じゃなく、帽子から取っときゃよかたなァなんて、もう一人の自分の冷静なツッコみを払いのけるが如く、彼はテーブルをバンと叩いて立ち上がった。
次元大介の男の生き様、とくと見るが良い!
心の叫びと共に、白ブリーフが闇夜に散った。
今、この俺の男らしさが分かるのは、おそらく世界中で自分ただ一人だけだろう。
それで良いのだ。
彼は寒さに震えながら帽子をぎゅっと目深にかぶりなおし、思い切り気障に煙草の煙を吐き出してみた。
Fin