ボケ殺しに花束を

 

 手札をテーブルにおいて、五右ェ門は夜空に浮かぶ月を見上げた。

 いつしか日が暮れ、食べることも忘れて勝負にのめりこんでいた事に気づく。

 なんとか食い下がってきたが、ついに五右ェ門は完敗を喫した。

 しかし悪い気分ではない。

 この「背水の陣」の心持ち。

 久しぶりであった。

 ルパンが言ったように、圧倒的不利な状況で、あがいて戦う。

 その緊張感。

 負けはしたが良い真剣勝負であったと、五右ェ門は己の戦いを振り返った。

 地面に死屍累々といった様で散らばる男達の着衣。 

 それは、五右ェ門が力いっぱい斬り捨ててきた敵兵たちだ。

 やるだけやった、と、満足そうにそれらを眺めた。

 そして、意を決したように五右ェ門は腰の布に手をやった。

 するりとそれを取り去ると、でぇやぁ〜!と気合一発、袈裟斬りをするかのごとく振り払う。

 白い鳥がねぐらで羽根を休めるように、それは静かに地面に落ちた。

 斬りこんでいった武士が切腹をするというのは、おそらくこういう気分だったのだろうか、と五右ェ門ははるか古の合戦場の漢たちに思いをはせながら、月明かりの下で仁王立ちになっていた。

 と、重いエンジン音が近づき、三人の男をライトが照らした。

「皆、おそろいね。ちょうどよかたったわ」

 紺色のベントレーから降りてやってきたのは不二子であった。

「ルパン、以前に話してた黒ヒゲの宝が上がったってネタ、調べてきたわ。勿論、みんな乗るでショ?」

 彼女はテーブルの上のカードを払いのけると、海図と資料を広げた。

「あら五右ェ門、つっ立ってないで座ったらどお?」

 不二子は古の大海賊の宝の資料と、仕事の手順について説明し始める。

 パンツいっちょうの大泥棒に、それに帽子を足しただけのガンマン、そして素っ裸の侍。

 おそらく誰一人、マトモに彼女の話が耳に入っている者はなかったろうが、誰一人として「お前ぇの持ってきた話には乗らねぇ!」とゴネる者もいなかった。

 そして三人の心の声は間違いなく、一致していたであろう。

 

『せめて一言、ツッコんでくれよ!』

 

 ああ、だから女というのは恐ろしい……。

 改めて、夜風の冷たさが身にしみる五右ェ門であった。

 

Fin