大泥棒の誤算

 

 夕刻の心地よい木洩れ日はいつしか月明かりとなり、三人の男はランタンと月の光を頼りにゲームを続けていた。

 完璧な頭脳を持つ稀代の大泥棒にも、思いがけぬ誤算があった。

 武士道を持ち出された五右ェ門が思いのほか発奮し、意外な勝負強さを呈した事。

 そしてこの季節、日が暮れてからあっというまに彼らを襲う寒さであった。

 帽子とブリーフ一枚になって震えながらすっかり意気消沈しているガンマンと、おなじみ縦縞トランクス一枚のルパン、それに褌一枚ながらも周りに炎を纏うが如くの五右ェ門。

 そうだ。

 この侍は、極端に寒さに強いのだ。

 日が暮れて気温が下がると、とたんに思考能力が落ちた二人に比べ、心頭滅却したとおぼしき侍はグッと着衣を脱ぐ回数が減った。

 そしていよいよ勝負が決まるこの回。

 カードの交換を終えて、それぞれが手札を握って顔を見合わせる。

「フルハウス!」

 叫ぶと同時に、夜風に真白の褌をたなびかせながら、五右ェ門は立ち上がった。

 ルパンは観念したようにカードをテーブルに放ると、椅子にもたれかかる。

 天才といわれたこの俺様が、武士道ど根性に負けて、今宵散るのか。

 はっきり言ってこの勝負、勝っても何も得られないし、負けても何も失わない。

 しかし、何なんだ、この敗北感!

 ていうか、サッサと切り上げられずに寒くてひもじい思いをした時点で、負けだったよなあ、次元よ!

 チックショー!

 という叫び声と共に、縦縞のトランクスが月に重なった。

 

 

Fin