Strip poker
夏の暑さも一息ついた、すがすがしい秋、イギリスの夕暮れ。
ロンドン郊外の古いアジトの庭の木陰で、一つの仕事を終えた安堵と共に暇をもてあましているルパンとその仲間は、三人でカードに興じていた。
実はこのゲームは昼前から続いていたのだが、いまだ熱くなっているのは、負けがこんでおりかつ、勝負事になると負けず嫌いの五右ェ門ただひとり。
すっかりゲームに飽きているルパンと次元が、さりげなく切り上げるムードにしても、それは勝負に夢中になっている五右ェ門にはまったく伝わる様子もなく、カードを切り続ける侍であった。
ルパンは手札を取ってため息をつくと、つぶやいた。
「なあ、ちょいと提案がある」
彼の言葉に、二人は手札から顔を上げた。
「俺達は仕事を終えた後で、それぞれ懐もあったけぇ。こうやってちまちま金を賭けてゲームをやっていても、キリがない。金を賭けるのはヤメにして、そろそろケリをつけねぇか?」
睨み上げるルパンを、二人はじっと見た。
「……てぇと?」
おそらくルパンと同じく、そろそろゲームを切り上げたいであろう次元が身を乗り出した。
「ここはイギリス。この国名物、ストリップ・ポーカーでいこうぜ。ルールは簡単。毎回、勝った奴以外は、身につけているモノを一つずつ取ってゆく。ただし、武器や小物、人工皮膚はカウントしない。最初に素っ裸になった奴が負けで、ゲームは終了さ」
二人を交互に見つめながらゆっくりとルパンは話す。
「……俺ぁ、乗った!」
次元はニヤリと笑って、手札を並べ替える。
「ちょっと待て、ルパン!」
五右ェ門が憤った顔で立ち上がった。
「おぬし達に比べ、俺は格段に着衣の数が少ない!これでは、不公平なのではないか!」
「バカヤロウ!」
負けじと、ルパンも怒鳴りながら立ち上がった。
「俺達の戦いってのはなァ、いつだってイーブンでやれるってワケじゃねぇ。どんなに不利な状況からでも敵に立ち向かって、そして逆転するってぇのが俺達じゃなかったか?それが、侍総受、もとい武士道ってモンだろう、違うか五右ェ門?」
にらみ合う男二人。
「……分かった、この勝負、男として受けて立とう」
五右ェ門は静かに言うとドンっと椅子に座り、手札を改めて見つめた。
「さて、皆の衆、これからは降りはナシだぜ」
ルパンはにやりと笑って椅子にふんぞり返った。
そうやって、それまでよりも格段に張り詰めた緊張感を持ってして、ゲームは再開された。
最初の回で勝ったのは、やはりルパン。
五右ェ門とそして次元が、身につけた物を一つ捨てなければならないハメになった。
「……草履は、小物ではなく着衣に含めて良いのだな?」
「ああ、イイぜ」
震える声で尋ねる侍に、ルパンは唇に余裕の笑みを浮かべた。
この分だと、勝負がつくのも早いと踏んだのだろう。
五右ェ門は片方の草履を脱いで放り投げた。
「なんでェ、武士道とか言いながらセコいんだな。なんつって、俺も」
次元も肩をすくめると、靴を放った。
「お前ぇは、ふつうソイツからなんじゃねぇの?」
あきれた顔でルパンが次元の帽子をつつく。
「バッカヤロウ、こいつぁ俺のこだわりだ」
次元はあわてて帽子を押さえた。
そうやって男たちの真剣勝負は続くのであった。
さて、ゲームの行方は?