不二子は、バーカウンターのミラーに映る自分の姿を満足気に眺めた。
大粒のグリーンダイヤのネックレス。
それは彼女の黒い髪と黒い瞳そして象牙色の肌に、最高に似合っている。

でも、彼女にはわかっていた。
どんなに高価で稀少な宝石を手に入れても、その満足感は一週間と続かない。
自分にとって、あって当たり前の存在になってしまうのだから。

勿論、その国宝級のダイヤはルパンとのいつものゲームに勝利して手に入れたものだった。
それでも、ルパンたち三人をだしぬいて自分だけのものにした時の悦びは、すでに薄れつつある。

それも不二子にとっては当たり前のこと。
次に自分を満足させる獲物を見つけるのが、また楽しいのだ。

そして。

今、不二子の大きく美しい瞳はカウンターのミラーの端に、長身の派手なスーツの男をとらえる。
あと数十秒ほどで、彼は不二子の隣にやってくるだろう。

不二子はわかっている。

彼がいなければ、どんな宝石もどんな金塊も意味がない。

だってそれは彼の愛を試す小道具なのだから。

自分にふさわしい、最高の宝物。
そしてそれを上回る、彼の愛。
それがそろってこそ、彼女は最高の興奮と満足が得られる。

 でもね、ルパン。
 女は欲張りなのよ。
 あなたは私に試されつづける運命。

不二子は心でつぶやく。
緑色に輝くダイヤをつつっと指でなぞった。

 私があなたを傷つければ傷つけるほど、裏切れば裏切るほど、あなたは私を
 愛さなければならないわ。
 そんなことができる男は、世界であなただけだもの。

己の手からするりと奪われたグリーンダイヤが彼女の胸元に納まっているのを見て、彼はさぞかし満足そうな顔をするだろう。
その表情を想像して、不二子の心は悦びにうちふるえる。
コツコツと耳慣れた軽やかな足音に鼻歌が、背後から近づいてきた。

最高のエクスタシーの瞬間まで、あと、数秒。