二人が屋敷の中に連れ戻され、南浩一郎が前に立ちはだかるのは十数分後。
彼はから奪い返した観音像を愛おしそうに手にとっていた。
そして二人に目をやる。

二人は警備員から銃を向けられ、それぞれ手錠をかけられていた。

「・・・・・・・コソドロ二人は逃したが、これが返ってきたのならいい。
そして・・・・・・。お前もこの手に落ちるとは思わぬ収穫だ。」

南浩一郎は観音像を手にしながらにやっと笑った。

次元はぎょっとしてを見た。
この女はただの女盗賊と思っていたが、南浩一郎とは因縁なのか?

はキッとした目で南浩一郎を見ていた。
次元を見るときの冷ややかで冷静なまなざしではなく、怒りのこもった熱いまなざしで。

「お前がこんな手で観音像を奪い返しに来るとは思いもしなかった。
しかもルパン一味の男までくわえこむとは。
そこまでして母の形見を奪い返したいのか?
わしの女になれば、いつでも観音像を愛でる事ができるというのに、バカな娘だ。」

は何も言わない。

「まあ、ルパン一味の男も手に落ちたのは好都合だ。
お前たちはこの観音像の対の男型のものを一度わしから奪っている。
さて、その男型の観音像も返していただくかな。」

浩一郎はにやにやと二人を見比べた。

。お前はルパン一味とグルなのだろう?
お前達の命が惜しかったら観音像を持ってこいと、ルパンに伝えろ。」

浩一郎はセルラーをに放ってよこした。
は足でそれをついっと蹴る。

「ルパン一味ともこの男とも関係ないわ。」
「そうか?」

浩一郎は銃口を掲げて次元とをまた見比べて少し考える。
一度銃口を次元に向けて、それをに向けた。
の額に銃口を当てて、そのまま地面になぎ倒し、手錠を柱に固定する。

「男をいたぶっても面白くないからな。
おい男。が泣き叫ぶ姿を見たくなければ、ルパンに観音像を持ってくるように言え。」

浩一郎は好色そうに笑ってに銃口をつきつけながら、のシャツのボタンをひきちぎってゆく。

「ばかね。この男は関係ないって言ったでしょう?私がどうなろうと何も動かないわ。」

 表情も変えずに淡々と言った。

「そうかな?それはそのうちわかる。」

浩一郎は笑いながら今度は下着に手をかけた。

「・・・・・モクレンに似てきたな。
わしはお前の母親を手に入れる事はかなわなかった。
しかし、モクレンの家系に代々伝わる、あいつに生き写しの観音像は手に入れた。
そして、今度はお前を手に入れる。まったく親子して手をかけさせられたものだ。」

の白い胸があらわになった。

次元の目を射る。

アルファロメオの中で夢中になった事が思い出された。

そうだ。

どんなに認めたくなくても、自分は確かに、この女との行為に夢中になっていた。

「おい、男。ルパンに連絡がとりたくなったらいつでも言え。」

浩一郎はにやにや笑いながら次元に一瞥をくれた。

この男は次元がにしたことと同じことをこれからするのだろう。
いや、もっと酷いことをするのかもしれない。

処女だった女が1週間に二度もレイプされることになるとは、つくづくついていない事もあるものだ。
他人事ながら次元は冷ややかにため息をつく。

彼が今すべきことは、南浩一郎がの陵辱に夢中になっている間に警備員から銃を奪い、そして観音像を奪還して脱出すること。
警備員もさすがにの様に一瞬であっても目を奪われるだろう。
チャンスに違いない。

そんな風に頭で考えている中、浩一郎の節くれだった手がの胸を握りつぶすように触れてゆくのが見えた。

はあいかわずの表情で男を見ている。

次元は自分がやるべきことはわかっているのに、口をついて出たのは考えていたこととはまったく違うことだった。

「まて。俺に電話をよこせ。ルパンを呼ぶ。」

浩一郎は手を止めて次元を見た。
が、次元の耳に入ったのは彼の声ではなかった。

「余計なことはしないで。これは私の問題よ。
この男が観音像を二体とも手に入れるなんて思ったら、私は死んだほうがましだわ。」

は浩一郎の下から、次元をにらみつけながら強い口調で言う。

「・・・・・お前ぇ、死んじまったら意味がねぇだろうが!何を言ってやがる!」

 次元は思わず怒鳴った。

「あなたこそ何を言ってるの?私はあなたとは関係ないでしょう?
あなたこそ私をレイプしたくせに、私が誰に何をされようと放っておいてほしいわ。」

 浩一郎に組み敷かれたまま言い放った。
なんてプライドの高い女だ。

「意地を張るんじゃねえよ、バカが!
俺は確かにお前ぇをレイプしたが、だからといって、お前ぇが誰にでも何をされてもかまわねえってモンでもねえだろうが!」

次元もまたついつい大声を出した。

アルファロメオの中で繰り広げた次元の強引な情事。

あれは二人にとって戦いだった。

あのときの彼女の強さの意味がわからない男が、を陵辱するのは、彼には、耐えられなかった。

そして、どうしてだろうか。

自分の銃を他人に触られてしまうような、そんな感情があった。

「・・・・・お前ら、いいかげんにしろ!いいからルパンに・・・・」

 いらついた浩一郎が次元のほうをみて言い放つ。
と、は自分への拘束が弱まったその瞬間に右ひざで、浩一郎の左手の銃を蹴った。
それは恐ろしく確実に次元の手に飛ぶ。
次元はそれを手にした瞬間、体を低くしてスライディングするように浩一郎のそばへ行きこめかみに銃口をあてた。

「・・・・・・くっ・・・・・」

浩一郎は脂汗を流す。
次元は彼のこめかみに銃口をあてたまま引き起こしてそばの警備員の銃を奪った。するりと自分の手錠をはずしたあと、の手錠を撃って彼女を自由にする。

「おい、観音像を取り返せ。」

 次元に言われて、は驚いた顔をしながら、浩一郎のふところから観音像を奪い返した。

「・・・・・・こいつも持っておけ。使えるんだろう?」

 次元はに銃を一丁ほうってよこす。

「・・・・・・良いの?私に銃を渡したりして?」

 は困ったような顔をして次元を見上げる。

 次元は彼女を見ず、そしてなにも言わない。
警備員のほうに向いた。

「お前らのボスを殺されたくなければ部屋の戸をあけろ。俺たちは帰らせてもらう。」

「くっ・・・・・警備はこれだけではない。このまま逃げられると思うな!」

 浩一郎は腹立たしげにつぶやく。

 そのとき、外から轟音がした。
 ふと窓のほうを見ると、窓が壁ごと切り取られていった。

次元は即座に理解した。ルパンと五右衛門だ。

 脱出用のヘリからおろされた梯子に五右衛門がぶらさがり、退路を開いてくれた。

「次元!はやくつかまれ!」

「助かったぜ、五右衛門!」

 振り返ってを見た。

「あんたも来るか。」

 次元は返事を待たずにその手をつかむ。

の手は今は暖かかった。

戸惑ったような大きな瞳でじっと次元を見て、一瞬、確かにぎゅっと彼の手を握り返す。

が、次の瞬間次元の手をふりほどいて五右衛門が切った窓から一人飛び降りて行った。

!!!」

 次元は彼女の名を叫ぶ。

「次元!早くしろ!」

 五右衛門にせかされ、次元ははしごにつかまり上空へと脱出していった。

は木の枝につかまりながら、軽やかに降りていく。
上を見上げると目があったような気がした。
ヘリとともに遠のく彼を、じっと見上げている。

次元は戸惑った気持ちで、彼女が豆粒のように小さくなるまで見ていた。