「で、次元は首尾はどうだったよ。」

自分たちの拠点に戻ってルパンたちと打ち合わせ中、ついに次元の仕事の首尾について尋ねられた。
次元は首筋をさすりながらうつむいたままだ。

あの時、いったい何をされたのか未だによくわからない。
強い衝撃ではなかった。
彼女の手の感覚が首筋に感じられたと思ったら、次の瞬間には体が動かなくなっていた。体の自由が奪われていたのは、それ程長い時間ではなかったがのだが。

「・・・・・・・まあ、やるだけはやったんだがな。すまねえ、具体的な様子掴めなかった。」

との一件は、思い出したくもない出来事だ。

まさかあんな無様な形で自分が敗北を喫するとは思いもしなかった。
冷静に考えれば考えるほど、腹立たしい。
彼女にというより、自分に対してだ。

最悪だ。

さすがにルパンに報告する気にもなれない。

「お前が?珍しい事もあるもんだねえ。で、メンツとは接触はしたのか?」
「・・・・・・・・・まあな。」
「じゃ、そいつだけでも拝んどくか。」

次元はそっぽむきながら写真を出した。

「おっほぉ-、こりゃかわいこちゃんじゃねえか-!」

「・・・・・・・次元、何かの間違いじゃないのか?このような若い清楚な女性が敵方とは・・・・・。」
 五右衛門は眉をひそめる。

「いや、そいつが観音像を狙ってるのは間違いねえよ。ただ、そいつ以外のメンバーや手口なんかは分からず終いだ。」

「そうか、なかなか用心深い奴らなんだな。しょうがない、俺達は俺達のやり方をもって、さっさといただいちまうか。」



南邸に侵入する日の前日。

次元はまた山寺に停まっている白いアルファの前にいた。
石段を降りてくるは今日は桜色の小紋を纏い、髪はくるりと二つにゆいあげていた。
は次元の姿をみとめると、はっと足を止める。

あらためて見ても美しかった。

次元は思わず彼女の体の感触や美しい曲線が頭によみがえるのを感じて熱くなる。
そして、自分の屈辱的な敗北感を思い出す。

「・・・・・・・・・今日は何もしねえよ。あんたにはああいう手はきかねえという事がわかったからな。」

次元は低い声で言った。
女は少し間を置いてからゆっくりと車の方に近づいてきた。
彼と目をあわさぬように運転席に乗り込もうとする。

「待てよ。」

次元はまた低い声で言った。
はびくりとして彼を見上げる。

「謝りになんかに来たわけじゃねえけどな。」

 次元はゆっくりと言う。
はおどろいた顔でまた彼を見た。
彼を見てもおどおどしたような様子もなく、相変わらず凛とした表情のままだ。
次元はまじまじとを見る。

自分はこの女に負けたのだ。

セックスを使って女を夢中にする事もできず、かといって苦痛と屈辱で彼女をうちまかす事もできなかった。
そして女は自分に陵辱されながらもちゃくちゃくと一番の機会を狙っていたのだ。

「・・・・・・・・何をしに来たの?」

は静かに言った。次元は帽子の鍔をあげて彼女と目を合わせた。

「・・・・・・・バージンがレイプされた後ってなあ、どうしてるのかと思ってな。」

次元はどうして自分がそんな事を言い出すのか、わからなかった。
彼女に会いに来たのは正直なところ、自分の敗北を確認しにきたようなものだった。
 は彼を見て、ふうっと息をつく。

「あなたは・・・・私のやろうとしている事を知っているでしょう?
そして性的嗜好で私をレイプしたのではなく、仕事でしたのでしょう?
私も、自分の油断があればああいった事をされても仕方がないと思うし、お互い様だと思っているわ。
勿論、卑劣なやり方だと思うし、自分にとって辛い事には変わりはないけれど。」

 言って、まっすぐな目で次元を見た。

 その整然とした物の言いはまた次元を苛立たせる。

「初めてのセックスが泥棒野郎に無理矢理ってのも、仕方がないって思えるのか。
よくできたお嬢ちゃんだな。」

 そのまなざしにどう応えて良いのか分からず、次元は言い捨てる。

次元の頬にぱんっとの平手が舞った。

「これで満足?」

 はまた、次元をじっとみつめながら言った。

「無意味に私のそばに近寄らないで。
子供みたいに泣いたりののしったりはしないけれど、私があなたをぞっとするくらいに嫌いだという事くらいわかるでしょう。」

はそれだけ言うと、運転席に乗り込んで車を出した。

次元は何も言わずにそれを見送る。

左頬の、彼女の感触を手で覆った。
ため息をつく。

「子供みたいに」ののしってくれる事を期待していたんだが。

彼の敗北は確定した