久しぶりの日本に帰ってきたルパン達は、焼き鳥などを食しながら今回の仕事の打ち合わせをしていた。

「そういえばあの観音像の片割れに関しては心残りであったな。」

五右衛門が珍しく感情的に声を上げている。

「そうなのよ〜。もう一体の観音様が恋しくて、夜鳴きするってもんよ。」

ルパンは旨そうに焼き鳥にかぶりつきながら、純米酒をすする。
話題になっている観音像とは、以前にルパンたちが入手した翡翠でできた古い、小ぶりな観音像のことだ。
ある旧家に伝わるものを、南浩一郎という資産家が手に入れて所蔵していた。それをルパンたちが手に入れたのだ。
しかしそれは完全ではなかった。
その観音像は、男形と女形の二体で一対になっていたのだが、ルパンたちが手に入れる事ができたのは男形の方だけだった。
ルパンたちに片割れを盗まれてから、所蔵主の警備はいっそう厳しくなり女形の入手については一旦見送っていたのだ。

「あの像が二体並ぶっつったらそりゃあ華やかなもんだろうな。なんつっても総翡翠だ。しかもあの珍しい明るい緑は俺は好きだな。」
次元も想像してにやつきながら冷や酒をかたむけた。

「しかし、今回はもう一派それを狙ってる奴がいるって話よ。」
 ルパンは串をもてあそびながら言う。

「ほうほう、俺たちに挑戦しようってなあ良い度胸してるじゃねえか。」
 次元はすっかりお腹の方が落ち着いたとみえて、純米酒に夢中になっていた。

「今回は侵入のめったにないチャンスだし、あの観音像はぜひ手に入れたい。妙な奴らとバッティングして機会を逃したくねえな。次元、ちょいとどんな奴らか調べといてくれよ。できれば、俺達の邪魔をしねえようにしといてくれると嬉しいんだけどなー。俺と五右衛門はもう一度下調べをしておくからよ。」

「けっ、めんどうな役目だな。ま、いいけどよ。」

次元は舌打ちをする。



ルパン達と二手に分かれて、次元は相手とおぼしき者を調べて行った。
が、どうにも明確な正体がつかめない。
観音像を狙っている奴がいる、という情報はルパンの古くからのつきあいの情報屋からのもので、信頼はできるはずだった。
次元はようやく手に入れた1枚の写真を眺める。
今回観音像を狙っている者に関係しているという人物だ。

その一枚の写真には、和服姿の若い美しい女が写っていた。
これだけが、今回の相手の手がかりだ。

「・・・・・、か。」

次元は写真をじっとみて、また内ポケットに入れた。

今、彼はその女を待ち伏せしているところだった。
そしてその場所は、まるで彼にそぐわない山寺の風雅な庭であった。
彼が調べたところによると、女は定期的にこの寺にやってきて、住職の茶の相手をしている。遠目に茶室の様子を見て、次元は境内の階段を下り、女が車を停めているところで身をひそめた。

さて、どんな手で情報をさぐってやろうか。

強引な方法で女に言う事をきかせるというやり方は確かに好みではないが、今回は時間がない。
手段を選ばずにやるしかないだろう。次元はため息をついた。

そもそも女のからむ仕事は好きじゃない。

ターゲットの写真を入手した時点でルパンにかわればよかったのだ。
多分奴ならばよろこんで仕事を遂行するだろう。

つと顔を上げると、女が石の階段を下りてきた。

萌葱色の小紋を纏っている。
遠目に見ても、その品のよい華やかさは辺りを照らすようだった。
パールホワイトのアルファロメオに近づいてきた。

次元は気配を殺して近づくが、女はすぐに気付いたようだ。
目が合う。
次元は思わず一瞬足を止めた。

写真とは比べものにならない美しさ。

陶器のような肌に大きな瞳。
人をじっとみつめるそれは、見る者を吸い込んでしまいそうだった。
少し編んで、あとは腰まで垂らした波打った長い髪は可憐に風になびいていた。

「・・・・・何か?」

女は少し警戒したふうに静かに次元に問うた。
次元は大きく呼吸をして、歩をすすめる。

「・・・・俺は信心深い方じゃねえが、ここは落ち着く良い寺だな。」

女の固く結ばれていた唇はふんわりととけた。

「そうでしょう?あまり有名ではありませんが、由緒正しいお寺です。住職もご立派な方です。よろしかったらご案内いたしましょうか?」

ゆっくりと柔らかく話した。
すずやかで美しい声だ。

次元は戸惑ってしまう。
今まで仕事でいろんな女にからんできたが、こんなにも闇の部分を感じさせない女は初めてだった。さて、これからこの女に尋問をしなければならない。
冷静に思ったように仕事をすすめるのだ、と次元は自分に言い聞かせた。

「いや、遠慮する。俺が用があるのは住職じゃなく、あんたなんでな。」

「私に?」

女は不思議そうに彼を見た。
愛らしい大きな目で次元を見たまま、少し首を傾げる。

この女が本当に相手方の組織の女なのだろうか。
でも情報に間違いはないはずだ。
自分はこの女から情報を聞き出さなければならない。
冷静に事の進め方をシミュレーションする一方、女に対する興味がそそられた。

だな。」

名を呼ばれて、女はまた不思議そうに彼を見る。

「はい、そうですが?」

次元は銃口を彼女につきつけた。

「車に乗れ。」

は眉をひそめて、銃と次元を交互に見た。

「早くしろ。」

運転席を開けようとするに、次元は銃で後ろをさす。

「後部座席に乗んな。」

は少し考えて、言われた通りにした。
次元も続いて乗り込む。

この対応、彼女がまったくの素人ではないという事は疑いようもないだろう。
堅気の女が声も上げずに、こんなに落ち着いているはずがない。
次元は少しほっとする。
銃を構えたままでを見た。

「あんたに聞きたい事がある。あんた達は・・・・・南浩一郎の翡翠の観音像を狙っているな?」

女はじっと彼を見たまま黙っていた。次元はイラついて銃を女の額にあてた。

「俺が殺さねえとでも思っているのか?」

「・・・・・・・・・殺すのならば、殺せば良いわ。」

は相変わらずの落ち着いた表情で、しかし少し震えた声でつぶやいた。
次元は舌打ちをする。
今回この女を殺す気はさらさらない。
それにつけこんだようなこの女の態度は彼を苛立たせた。
どう考えても女に勝ち目のないこの状況で、この落ち着きっぷりはどうだろう?
大きな目はまたじっと次元を見ている。
ふっくらした珊瑚の色の唇は何も言葉を紡ぐ様子はなかった。
20そこそこの若さだというのに、凛とした何かがあった。
圧倒的に自分が相手を押しているというのに、次元はなにかしら自分が劣勢な気がしてしまう。
若い娘にありがちな、根拠のない自信と虚勢にすぎないと思いながらも、そのまっすぐなまなざしは彼には受け止め難かった。
この美しい女は一体何を考えているのだろう。
一体何者なのだろうか。

「・・・・殺しはしないが、死んだ方がマシだという思いをさせてやろうか?お嬢さんよ?」

次元は銃を額から少し離して改めてを見た。
はあいかわらず表情を変えない。

次元は大きく息をついてから、銃を向けたままの肩をつかんでを車のシートに沈めた。

すかした顔をしているが、普通の女には違いない。
ただ、世間知らずで美しいだけの女に違いない。
それを、これから証明するのだ。

一瞬でも女の態度にひるんだ自分が気に入らなかった。

ちょっとつつけば、泣き出すにちがいない。
虚勢だけでは、こういう世界は渡れないものだ。

次元に組み敷かれたは目を丸くするが、声は上げない。
次元はの小紋の胸元をぐっとひろげ、白い胸をあらわにした。
その美しい乳房とおそろしくなめらかな肌触りは一瞬だが、次元の脳を溶かしそうになった。
女は体をびくりと固くし抵抗しようとするが、次元は彼女の四肢の関節をうまく抑えこんでいる。

「観音像を狙っているんだな?何人でどんな組織だ?どういう手口を使う?」

次元はの首筋から胸にかけて唇をはわせながら尋ねた。
ぐっと掴んだたわわな乳房の弾力となめらかさに内心驚く。
着物の裾をたくしあげ、なめらかな腿をなであげながら足のつけねにも手をのばした。

女は相変わらず何も言わない。

表情には一瞬恐怖の色が浮かんだような気がしたが、すぐに元の表情に戻って目を閉じた。

一体どういう女なんだろう。

次元にはまったく予想がつかなかった。
まあ良い。
どんな女か知らないが、屈辱に耐えられなくなるか、行為に夢中になるか、二つに一つで口を割ることになるだろう。

この、彼をやけに苛立たせる風変わりな美しい女を、プロのやり方で降参させてやりたい。

情報を得るかどうかということ以上に、彼にはそんな目標もできてしまった。

女の体は素晴らしかった。
帯を解いてその体をあらわにすると、ビーナス像のような魅力的な曲線、そして吸い付くようななめらかな肌触り。
尋問の言葉をかけながら、挑戦的に体を愛撫してゆく。
甘い香りのするその体はどこまでもなめらかだった。
歓喜の声も恐怖の声もあげないが、彼の動きに時にびくりと反応するその様が、やけに次元を刺激した。

次元は必死に自分の道筋を頭に描きなおす。
予想外に自分が行為に夢中になってしまいそうな事に気付いた。
確かに、今まで仕事で関わったどんな女とも違う。
美しさも際だっている。

しかし、最高に気に入らない苛立つ女だ。

油断してはいけない。
自分のペースで事をすすめなくては。

行為を続けても、女は時にびくりとして顔をゆがませるが相変わらず何も言わないし声も上げなかった。
女の体はひんやりと冷たいままだ。
苛ついた次元はベルトを外し、女の脚に手をかける。

「強情なお嬢さんのようだな。口を割る気になったら、いつでも言え。やめてやる。ま、やめてほしかったらの話だがな。」

次元はわざと憎らしげに言い捨て、にやっと笑って一気に腰を落としていった。

「・・・あっ・・・・!」

は初めて悲鳴に近い声を上げた。次元の腕を強く掴む。
次元は次元で、彼女の中の想像以上の抵抗と締め付けに驚かされた。
電気が走るようだった。
女は一度声を上げたきり、顔を背ける。

「口を割る気がねえのなら、泣くなり喜ぶなりしてもいいんだぜ?」

尋問のためとはいえないくらいに時間をかけて愛撫したというのに、まったく反応しない女への悔し紛れもあって次元はわざと彼女の気に障るように、かつつとめて冷静に言葉を続けた。
が、は相変わらず何も言わない。
次元は黙って行為を続けた。

もう後には引けない。

だから、女の関わる仕事はいやなんだ。

山寺に来たこと自体を後悔しはじめた。

ふうっと深呼吸をする。
女は全く感じていないようだった。
しかし不覚ながら彼自身は、彼女の必死で耐えるその表情、声をかみころしている様には、ぞくぞくするほどに感じさせられた。
自分の男としてのそんな俗っぽい部分が、また彼自身を苛立たせる。

車内には次元の息づかいと、時にかすかかみ殺したの吐息が静かに響いていた。
どんな風に行為を続けても、彼女はかわらず何も言わず、そして苦痛の声も歓喜の声も上げなかった。

いつしか次元は彼女に尋問の言葉をかけるのもやめて行為のみを続けていた。
次元は焦り始める。
どんどん自分が限界に近づいてきているからだ。
彼女の美しい肉体とその肌触り、まったくくずさない凛とした態度はやけに彼を高める。
しびれるような感覚が彼を苛んだ。

 次元は仕事で女相手にセックスを使う事はルパンほどに頻繁ではない。
が、使う時はもっと冷静で、自分が快楽に溺れるという事はありえなかった。そういう時は女自体への興味がないからだ。
しかし今はどうだろう。
女の表情を気にしつつ、自分ばかりが高みに昇ってゆく。
いつしかセックス自体に夢中になってしまっている自分に気付き、困惑と強い苛立ちを感じた。

 くそ、だから女がらみはいやなんだ。

 何度目かのそんな悪態を心でつぶやきながら、自分の限界を覚悟した。
 頭の一部では冷ややかにそんな自分自身をみつめながらも、抵抗できない甘いしびれるような快楽に身をまかせる。

 そして、電流が走るような絶頂が彼を襲った。

 一瞬、銃を握る手の力がぬける。

その時、まさにその瞬間に、次元の首筋に妙な感覚が襲う。

「・・・・な・・・・っ!」

下半身がまだ脈打っている中、次元は体の自由がきかなくなった事を感じた。
女の手が彼の首に触れている。
何が起こったのか、わからない。

女は次元の下から体を起こし、車のドアを開けて彼を引きずり下ろして彼の銃を投げ捨てた。
そしてすぐさま身繕いをして車を出す。

後には銃と共に、最高にぶざまななりで取り残された男がひとり。

次元は自分の下半身に血液がこびりついているのに気付いた。
はっと行為の途中の女の様を思い返す。

「・・・・・あいつ・・・・・バージンか・・・・・。」