12月24日(雪)〜メリークリスマス
昨日から降り続いていた雪は、すっかり町を白く染めた。
が、クリスマスに向けての家並みはどこも楽しげで、窓のあかりが普段よりも暖かいような気がする。
次元大介は赤いゴルフを、ミシミシという雪を踏みしめる音を立てながら、4丁目の路地に乗り入れた。
すっかり水の止まっている噴水の淵に、一人腰掛けている女がいた。
相変わらず古いテンガロンハットをかぶって、ムートンのジャケットを着ているが、ショートなパンツからはその長いセクシーな脚がむき出しだ。
車を降りて、雪に靴をめりこませながら歩いてゆく彼を、は驚いた表情で見る。
次元は目を丸くして見上げる彼女の前に立った。
そしてひざまずいて、BBから預かったネックレスを彼女の首にかける。
「あんたの父親から預かった。控えめに言っても…相当な値打ちモンだぜ?」
は、小さなダイヤ達でたっぷりと縁取られたうすい緑色の大きなダイヤのネックレスをみつめた。
「手の…蛇の刺青。記憶にあるわ。やっぱりお父さんだったのね…」
そのダイヤをきゅっと手のひらで握り締めてくすっと笑った。
「思い出したわ。このダイヤ…家のテレビか何かで、子供の頃見たことがある。こんなの素敵ねってお母さんが言って、それじゃあ俺がスミソニアンまで行って頂戴してきてやるよって、お父さんは出かけていったのよ」
クックッと笑った。
「変わってるわよね。でも、約束を守ってくれたんだわ…」
「もうひとつ約束の伝言だ。親父さんは冬が苦手らしい。来年の夏にはアンタに会いに来るってよ」
「…そう。じゃあ、私もうゲームをやらなくても良いのね」
ダイヤを握り締めたまま、はふうっと幸せそうに大きく息をついた。
「ところでお洒落な次元大介。あなたはなんでそんな格好をしているの?」
はおかしそうに尋ねる。
次元はむっとしたように立ち上がって彼女を見下ろした。
「アンタの親父の趣味さ。娘にサンタクロースの格好で誕生日プレゼントを贈るのが夢だったらしい」
次元は、ぶかぶかで安っぽいサンタクロースの衣装の裾を忌々しげに握り締めた。
の笑いは止まらない。
「あなた、ここへ来て飛行機に乗り損ねたのは何度目?その上変な事に巻き込まれて、そんな格好までさせられて、ほんと、ツイてないのね」
次元はの帽子を手にとってもてあそぶ。
「…ツイてるとかツイてないとかじゃなくて、俺が選択して行動した結果さ」
「あら、よくわかってるじゃない」
は次元を見上げて微笑んだ。
「俺があんたの親父に頼まれたのはここまでだ。さて、俺とゲームをしないか?」
次元はの帽子を置いて、もう一度彼女の前にかがんだ。
「なあに?」
「この俺の帽子を取ったら、あんたのその冷え切ったアンヨを俺の毛むくじゃらで水虫持ちの足でたっぷり暖めてやる。どうだい?」
「あなたは南の国へ行くんじゃなかったの?」
はダイヤから手を離してじっと次元を見た。
「南の国へ行かなくても、暖かくすごす方法を思いついた。どうやるのか、知りたくねえか?」
はそっと彼の髭に触れてから、彼が被っているちゃちなサンタの帽子をすこしずり上げて、隠れていた次元の目を出した。
「…私に、恋をしたのね、次元大介」
じっと彼の目を見た。
「言うようになったなあ、え?」
彼は目をそらさない。
は両手でそっと彼の帽子を取って、きゅっと自分の頭にかぶせた。
「安物ね。あまり暖かくないわ」
言って、サンタの襟元をつかむと自分の方へ引き寄せ、いつかの朝のように次元の耳元に唇をよせる。
「メリークリスマス」
彼女が耳元でささやくのと同時に真夜中を知らせる鐘が鳴った。
次元も応じてそう言おうとしたのだが、彼女の唇で塞がれてその一言を言うことはできず、心の中でつぶやいた。
メリークリスマス
愛しいひとよ