12月18日(晴)

 二人は次元の安宿にたどりついた。
 次元は懐が暖かろうが、あまり良い部屋を取る習慣がない。
 が、女はさして気にする様子はなかった。
 次元は部屋に戻る途中の店で、煙草とビールを仕入れてきたのだが、その中のハイネケンを一本女に差し出した。

「その辺に座っててくれ。」

 次元は上着を脱いで椅子の背にかけ、ネクタイをゆるめながら彼女に促した。
は少しは迷いながらベッドに腰掛ける。
レザーのテンガロンハットをおいて、まとめていた髪をおろした。
濃いマーマレードみたいな色の髪が流れるようにベッドに落ちた。
その髪の美しさに、思わず次元はそっと手を触れる。

彼の仕草にびくっとは驚いた様子だった。

「ああ、すまねえ、長い髪が珍しいもんでな、つい…」

 彼女の髪はつややかで、触れると絹糸のようにやわらかかった。
次元はそのまま頬、首、と指で触れて行く。
そのやわらかですべやかな感触に、燃え上がるような思いを抱いた。
そんな彼をやけに大きく見開いた目で、は見ていた。

「走って汗をかいたからな、先にシャワーを使わせてもらう。続きは後だ」

 次元は自分に言い聞かせるようにから手を離して、シャワールームへ行った。
頭を冷やすかのように、湯の温度を低くした。
自分はいつもプロの女を買うときは、クールだったはずだ。
今日はなぜ、こんなに熱くなっているのだろう。
確かに、めったにお目にかかる事のないような、美形が相手だからというのはあるかもしれないが。

女を抱くのは、自分にとってインターミッションみたいなもの。
ある意味、クールダウンする時。余計な気分の揺れはごめんだった。

シャワールームを出ると、彼女はハイネケンの缶を手に手に持ったまま、さっきとまったく同じにベッドに腰掛けていた。

「・・・・・具合でも悪いのか?ビール飲んでてもよかったんだぜ。
あれだけ運動したあとだ。さぞ旨かろう」

言って自分はハイネケンの缶をプシュッと開けた。

「そうね、でもビールはシャワーの後にしようかと思って」

は次元の言葉に我に返ったように立ち上がる。
今日最初に顔を合わせた時と同じ笑顔だった。
次元はちょっとほっとする。

よく考えたら次元自身も今日は走ったりなんやかんやの後で、ビールは本当に旨かった。買ってきたばかりのタバコの封を切り、口にくわえた。
封を切ったばかりの煙草の香りはたまらない。
しばらく火をつけずに香りを楽しんだ。

そういえば、ここしばらくハードな仕事が続いており、こうして女がシャワーを終えて出てくるのを待つなんて久しぶりだ。
仕事は万々歳でうまくいった後だし、今夜はタダみたいな値段でいい女を手に入れることもでき、なかなか悪くない展開だ。
明日のフライトも遅めの便で、今夜は十分ゆっくりできる。
たまにはこういう事があってもいいだろう。

神様はちゃんと見てるもんだ。

次元は濡れた髪をかきあげてくっと笑いながらビールを飲んだ。

ハイネケンを1本開けた頃に、がバスローブをまとってシャワールームから出てくる。
腰まである髪をふんわりと乾かしてきていて、頬は少しピンク色に上気していてまるで人形のように愛らしかった。
次元は冷えたハイネケンの緑の缶を再度手渡す。

「ありがとう」

は微笑んで缶を受け取り、次元の隣に腰掛け、今度こそプルタブを開けてそのふっくらとした唇から旨そうに飲む。
シャンプーもなんでも、自分と同じものを使っているはずなのに、なんだか不思議な良い香りがする気がした。

 彼女は何口か飲むとふうっと大きく息をつき、窓の外を見たあとちらりと次元を見た。
 長い髪を、くっとかき上げるがさらりとまた同じように落ちてくる。
 そんな様子を見てつい次元は小さく笑う。

「なんかよ。俺はこんな事を言う柄じゃねえんだが、アンタ。
政略結婚で初夜を迎える、どっかの提督のお嬢さんて、風情だな。」

 くしゃっとビールの缶をつぶして、二本目の煙草を口にくわえた。
 はまた目を丸くして次元を見た。
 少し間をおいて、ぷっと吹き出してたまらず声を出して笑った。

「私が?初夜を迎えるお嬢様?」

 はビールの缶を置いて、くっくっと愛らしく笑う。
どうにもツボにはまったようだ。

「そんなにあなたと寝るのがイヤそうに見えるの?」

 笑いながらも、少し戸惑ったように次元に尋ねる。

「いや、だとしても俺は気にしねぇがな。
あんた…あのゲームで負けるのは初めてなんだろう?」

 はまた驚いたように次元を見た。
 サイドテーブルに置いたビールを一口飲む。

「そうね…、そうよ。
負けて、男と寝る事になるのは初めてだけれど…、そういう商売だから気にしてない。
でも、最初に言ったようにあなたのニーズに合うかどうかはわからないわ。その…私は…」

 はもう二口ビールを飲んだ。

「あなたが思うコールガールのように、セックスは上手ではないと思うの」

 それだけ言って、ふうっと息を吐いた。
 そんな彼女を見て、次元はまた思わず笑う。
 自分の額にかぶさる髪をくっと払った。

「まあ、いろんな好みの奴がいるがな。俺は至ってノーマルだ。
慣れねぇ奉仕をさせて興奮するタチでもなけりゃ、SMの趣味もねぇ。
不感症ってぇんじゃなけりゃ、文句はねぇさ」

の手のハイネケンの缶を取り上げて、サイドテーブルに置いた。
の目はあいかわらずじっと次元を見上げる。
見れば見るほど彼女は美しく、そしてやけにぴりりとしていた。
次元はその、まっすぐなまぶしいようなまなざしに耐えられず、つい視線をそむけ、彼女の髪を掻き上げ、首筋に口づけた。

「あっ…」

 はびっくりしたように体をふるわせ、声を上げる。
その敏感な反応に次元は驚く。

のバスローブをはぎとりながら、ゆっくりベッドに横たわらせた。
露出の多い服装だったし、ある程度は予想はしていたが、想像以上に美しい裸身だった。

肌理の細かい象牙のような色の肌、均整のとれた、スレンダーでいながらグラマラスなスタイル。

思わずため息がもれるほどだった。
つややかな肩から腕にそっと指をすべらせると、そのなめらかで吸い付くような肌ざわりに驚かされた。
肩にくちづけながら、ゆっくり体を重ねてゆく。

はそうっと次元の首に手を回し、彼の愛撫を受け入れた。
その生真面目そうな表情や、体に触れるたびの敏感な反応に、次元はつい新鮮な思いを抱く。

 肌の手触りを楽しむように、背中や腰に手を回しつい夢中で愛撫していった。
はそのたび、体をふるわせ小鳥のような声をもらす。

彼は普段、正直なところ、前戯に時間をかけるほうではないが(特に金で買った女には)、はまるで生まれて間もない愛らしい子犬を抱いているようで、どれだけ触れていても飽きたらぬほどだった。

胸や腰にくちづけていった後、もういちど彼女の髪をかきあげて、頬に触れた。
潤んだ目で、彼を見上げていた。
髪と頬にふれながら、彼女の脚の付け根に手をすべらす。

「あっ…」

 高い声をもらし、次元の肩にそっとそえられていた手に力が入る。
は彼の手をすりぬけて顔をそらす。
その、感じた表情を見てやりたい気持ちもあったが、次元は彼自身の体の高まりの方を優先させ彼女の脚の間に腰をすべりこませた。

彼女の体は暖かかった。

そう、この感じ。

漆黒の夜に出会ったのに、まるで太陽を思わせるような女。
触れて、入っていったらどんな感じなのだろうかと思った。

ルパンとの仕事の後、死なずに済んだことの安堵もあってだろうか。

彼女と肌が触れ合うと、自分が生きている、と実感できた。
 髪をなでながらその小さな頭をそっと抱きしめた。
細い腰に手をそえ、熱い息を吐きながら彼女の中に腰を沈めてゆく。

 また、は声を上げながら次元の肩にしがみついた。
 具体的に何を思いだすというわけじゃないけれど、昔々に、惚れた女を初めて抱いたときの感覚を思い出した。
 行きずりの一夜にそんな気持ちを思い出すなんて老けた証拠か?
なんて、自虐的なことを考えて、次元は想像以上の高まりを抑えていった。

 女の体は敏感で、「手馴れた」男に「馴れて」ない様がすぐにわかる。
 そんな様がおかしくて、次元は普段だったら「省略」するような愛撫も丁寧にしていった。

「あっ…待って、次…次元…」

 は次元の肩にしがみついたり、体をよじって離してみたりしながら声を上げる。

「んん?なんだ?イキそうなのか?」

 次元はわざとそんなふうに言ってみる。
 は泣きそうな恥ずかしそうな顔を、キッと次元のほうに向けた。
 何かを言おうとして、でも上手く言えずまた顔をそむけて甘い声をもらした。
 次元はそんな彼女の髪に触れ、またなでた。
思わずくっくっと笑う。

「悪ぃ、からかうつもりはねぇし、言ったように俺はヘンな趣味があるわけでもねぇ。が、うぶな女が感じてるサマを見るのは嫌いじゃないんでね。」

 言って彼女の腰を支え、行為を続けた。


 なんとか自分の熱を一度おさめたあと、冷蔵庫にまたハイネケンを取りに行った。
 ベッドには背中までピンク色に染まった女。 
 その背中にそっと缶をくっつける。

「きゃっ!」

 は驚いて振り向く。
まだ瞳は潤んだままで、戸惑った顔。

「よかったら飲めよ」 
 一本渡して、次元は自分の分をうまそうに喉を鳴らしながら流し込んだ。
 は体を起こして、くるりとシーツにくるまった。

「ミネラルウォーターがあったらそっちをもらえる?」

 次元は缶を置いて肩をすくめた。

「俺にとって来いというのか」

 言いながらも冷蔵庫を開けた。

「コンガスかノンガスか?」
「どちらでも。」

 次元はノンガスのボトルを一本手渡す。

「ありがとう」

 は笑って言った。
もちろん、いつものあの笑顔で。

 キャップを開けてゆっくり旨そうに飲んで、ふうっと息をつく。
 カーテンの隙間の月明かりが照らす彼女にじっと見入った。
 次元の視線に気づくともじっと彼を見る。
 そういえば、いつも帽子で目を隠している彼は、人にじっと目を見られることには馴れていない。もちろん自分のそういうことに気づいてはいるのだが。

「ここには旅行で?それとも仕事?」
「…トランジットだ。ドメスティックがブッキングをミスしやがったんでね。便が一日遅れて足止めってわけさ」

 は水を一口飲んでおかしそうに笑った。

「通りで、薄着だったのね。暖かいところでクリスマスをすごす予定だったんでしょう?」

「そのとおり。ま、あんたのアンヨで暖めてもらってるんで、風邪はひきそうにないがな。」

 次元は脚をからめて彼女の耳に唇を寄せた。

 予定では、ここいらで女を帰して明日のドメスティックの時間までじっくり休息をとる計画だ。

 しかしドメスティックが遅れたこと自体、予定外なんだ。
 自分が自分の計画を変更するくらいかまわないだろう。

「どうした?もう、イヤか?」

 次元はまた彼女のボトルを取り上げサイドテーブルに置く。
戸惑った顔の彼女に愛撫を続けた。

「…なんだって、そう…困った顔をするんだ?ま、俺が気にすることじゃねえが」

 鎖骨のあたりをそうっと愛撫しながら次元は聞いた。
 は遠慮がちに次元の髭に手を触れた。
彼の前髪をかきあげて、目を見る。
 何か言うときに、きっちり目を見るというのはこの女のクセなのか?
と次元はため息をついた。

「…気にしないで。こんなことしていて変だけど、その…、初めて会った人と寝るのは初めてだし…。」

 言いながらも、何度か次元の前髪をかきあげる。
その優しい指の動きは次元の気持ちを高めていった。
でも、この女はそんなことなど気づいてないのだろうな、とまたため息をつく。

「初めてあなたを見た時…、この人は『恐ろしい』人だって思ったの。
私とのゲームをしないで帰ってくれるといいと、思ったわ。

…今でも、多分あなたは『恐ろしい』人なんだと思ってる。

でも…触れられて、抱かれていても、ちっとも恐くないし…とても感じるし…。
自分で自分が、変だわって、思っているだけなのよ」

 それだけ言うと、彼の髪に触れるのをやめた。
 次元はの鎖骨から唇を離し、顔を上げた。
今度は次元がの髪をかきわけて、じっと顔を見る。

「うぶな女が、それなりの男に抱かれて、手も足も出ねぇのは別に普通の事さ」

 次元は彼女の唇にそっと指を触れる。
そういえば、このやわらかそうなモノの味見をしていなかったことに気づいた。
ゆっくり自分のもので覆ってゆく。のくぐもった声が漏れた。


 安宿の薄いカーテン越しの太陽の光が、次元の意識を現実に引き戻した。
 はっと腕の中を見て、思わず息を呑む。

 オレンジ色というか濃いマーマレード色の明るい髪の色が太陽の色でかがやいて、その白い肌はしっとり美しい。

 そんな女が腕の中にいた。

 朝にフルーツを摘みに行ったら、多分こんな感じなのだろう。
 そんな健全なこと、もちろんしたことはないし今後もすることはないだろうが。

 夕べに幾度もしたように、その、うっすらと開いた珊瑚の色の唇を覆って、舌をそうっと入れていった。
農家に忍び込んでフルーツをこっそり頂戴した子供時代を思い出す。

 ゆっくり味わっていると、さすがに目を覚ました女が抗議をするように彼の肩をつかむが、だんだんとその力がぬけてくる。
 目を閉じてもありありとイメージできるほどになった彼女の体の輪郭を、彼はそっと指でなぞっているからだ。

「…だ、だめよ。」

 は息を吐きながら、懸命にそれだけ言った。

「ほんとに…だめなの。…私、今日は昼から仕事だから、もう行かなくちゃ」

「じゃあ、さっさとすませるさ」

 次元は肩を押し返そうとするの手を取って、愛撫を続ける。

「もう、ほんとに…!」

 は甘い声を出しながらもくっくっと笑い出す。

「そんなの、無理よ。わかってるくせに」

 次元の髭をひっぱって、そっとベッドに押し倒す形にした。

「しょうのない人ね。あなたも飛行機に遅れたら、こんどこそ風邪引くわよ」

 するりとベッドから出てバスローブをまとい、バスルームに行った。
 急いでいるのは本当らしく、さっさとシャワーをすませるとあわててジャケットも着て部屋に戻ってきた。

「じゃあ、私は行くわ。」

 サイドテーブルにおいてあった古いテンガロンハットを手にする。
 次元はまだベッドで裸のまま。

「…くれぐれも、風邪を引かないようにね、髭のお方」

 は少し迷ったように、次元の耳に顔をよせて、そこにそっと口付けた。
 そして帽子をかぶってくるりと背を向けると、カッカッと部屋を出て行った。

 次元は左の耳を押さえる。
 明け方まで何度も抱いた女。

 次元もシャワーを浴びに行く。
 時間をかけて温度を熱くしたり冷たくしたり。
 
 すっかり二日酔いだ。
 女がまったく体から抜けない。

 ヤラレタ。


 シャワーを浴びた後、次元はうっかりもうひと寝入りして空港へ行く時間に遅れそうになってしまった。
 あわててタクシーのいる通りまで走る。
 近道をしようと細い路地に入ったとき。

 ぞくりとした感覚。

 次元の五感が急に敏感になった。
 仕事帰りのトランジット。女。

 自分を油断させる要素があったのは否めない。
 ヒップホルスターに手をやりながら立ち止まってゆっくりふりかえった。

 思わず目を疑う。

 まるでイカレタ男がそこにいたからだ。
 ドレッド気味なヘアスタイルに派手なシャツのレイヤリング。
いかにもうさんくさい口ひげに、人を小ばかにしたような表情。
バカみたいに派手なガラス玉の首飾り。
 こんな男が、気配を消して次元を見ていたというのか?

「ヨーホー!」

 大げさにそっくりかえりながら男は声をあげて彼を見る。

「お前、次元大介だな?」

 すでに男に次元は銃を構えている。
 まるでそれが目に入らないかのように、男は次元に近づいてきた。

「だったら何だってぇんだ?
あのなァ、普通、こうやって銃を向けられたら、そうやってずかずか近寄ってくるもんじゃねえんだぜ。オッサンよ。」

 言いながら、次元はぞくりをしたものを感じていた。

 この男。
 ただのイカレた男ではない。

 ビリビリと、その隙のなさを感じる。
 銃の安全装置をはずした。
 しかし、一体何の目的でこの男は次元に近づいた?

「ふうむ」

 男は次元の帽子のつばを上げて目を見る。

「触るな!下がれ!お前ぇは一体何なんだよ!」

「俺か?」

 言って男は目を丸くして、自分のヘンテコな帽子を取った。

「俺はキャプテンBB。ま、人は俺をキャプテンBBと呼ぶね。」

 おかしそうに笑って言った。
 キャプテンBB?
 まったく聞いたことのない名前ではない。
 だかなんだって、こんなイカレポンチが…。

 次元が記憶の糸をたどっていると、BBの胸のガラス玉に目が留まった。
 あっ、と思わず声が出そうになった。

 ガラス玉どころじゃない。
 ドレスデングリーンダイヤだ。

 あまりの男のばかばかしさにすっかり目を奪われていたが、男が首にかけているのは約40カラットの至宝のグリーンダイヤだった。

「お…、おい、お前は一体…」

 次元は銃を構えたままBBに迫る。

「おいおい、次元大介、そんなもん振り回すな」

「振り回すなって、オッサンあんたがそもそもいちゃもんつけてきたんだろうがよ!
しかも、俺を泥棒だと知りながら、お宝をちらつかせてよ?」

「おい、俺を殺す気か?」

 BBはするりと体を低くして、一瞬にして次元の視界から消えた。
 そして次の瞬間、左の胸に熱い感覚。

 ヤラレタ

 BBのナイフは次元の肋骨の間をうまくすり抜けたようだった。
 胸を押さえてもどくどくとあふれ出す血。
 この感覚はヤバイ。
 相当に早く失血をする。

 俺はこんなところで、こんなふざけた男にやられて終わるのか。
 おい、ルパンよ。
 しかも、間抜けなやられ方だったな。

 体から力が抜けて地面に倒れこむ。
 足音が二つ、聞こえた。
 BBが去ってゆく足音と、そして誰かがやってくる足音。

 この際、警察でもいい。
 なんとかこの血を止めてくれ。

 仰向けに倒れた彼には、今日の晴天の太陽がまぶしかった。
 これが最期だとしたら、太陽が拝めただけでもいいかもしれないな。

 手足の先が冷たくなるのがわかる。そして意識がどんどん薄れてゆく。
 ああもう、意識がなくなるなと思った瞬間。

 太陽が急にオレンジ色に輝いて、真っ白の羽の天使が、自分の目の前にいた。

 この期におよんで、天使かよ!

 行き先は地獄でもかまわねえから、そこの天使さんよ。
こんなザマはルパンには内緒にしといてくれねぇかな。