● 僕の私のバレンタイン速報  ●

 バレンタインの本命チョコなんて、都市伝説だと思ってる。
 少なくとも、私の周囲はね。

「今年のバレ速予報はどう」
「上位陣は去年と大幅に変動はないと思う。ただ、3年の跡部さんが中等部で最後のバレンタインだから、彼の獲得数は去年よりはぐっと増えるだろうね」
 私の何気ない質問に、友達のナナはしれっと答えた。
 ナナは氷帝の幼稚舎の頃からの幼馴染で、そしてナナっていうのは本名ではない。
 コードネームだ。
 幼稚舎の頃からスパイごっこが好きだった彼女は、007シリーズが大好きだからそれで昔からナナって呼んでる。
「そっかー。跡部さんが沢山チョコもらうなんてのは当たり前すぎて、まあ今更速報もなにもないよねー」
 2月に入ると、氷帝の学食でのデザートもチョコ系が充実してくるし、あちこちで美味しいチョコを売り出すものだから、私とナナのおしゃべりの友もおのずとチョコになる。
 私たちは昼休みに学食のご飯の後、オヤツのチョコを食べながらナナのタブレットのデータを見ながらわいわいやってた。
 ナナはその名のとおり、氷帝一の諜報員じゃないかというくらいに情報通で、毎年彼女が出すバレ速の速さと正確さはすごいのだ。
 バレ速、つまりバレンタイン速報ね。
 ナナは、一体どういうルートで情報を集め、そして何のためにそれを整理しているのかさっぱりわからないが(情報源は極秘よ、という彼女の言い分にてそのあたりは追求しない)、毎年バレンタイン速報を出す。
 内容は、しごく単純でありながら綿密。
 まず、各部活やクラスでのある一定の目立つ「モテ男」をピックアップして、2月14日当日、彼らがいくつチョコをもらうのかのデータをランキングする。
 ランキングされるのは、もともとからエントリーされている男子だけじゃなくて、チョコを二桁以上もらった男子はリストにエントリーされる。
 ちなみに、その時のバレンタインの告白がきっかけで女の子と両想いになったケースは、これまた選挙速報の当確みたいに男子の名前の前にハートマークがつくようになるという綿密なデータ。去年のバレ速リストでハートマークがついてる子は、さして多くはない。ね? 本命チョコなんて都市伝説でしょ? 
 さて、一体どうやってナナがそんな情報を得ているのかわからないが、そんなバレ速が今年も楽しみなのである。
 ナナのバレ速はほんとうにマジに正確なのかって?
 それは折り紙つき。
 だって、去年のバレンタインの後、私は隣の席のサッカー部のモテ男くんにカマをかけて「チョコたくさんもらったんじゃない? お返し大変でしょー。 15個くらい?」なんて聞いたら、「なんでが知ってんだよ!」とうろたえられたもの。
 ちなみに、それまで二桁もらってたモテ男くんでも彼女ができるとその後はガタッと数が減ったりするわけで、そのあたりの変動も楽しみなところ。
「で、はチョコあげないの?」
 クールビューティーのナナは眼鏡のブリッジをくいと持ち上げて、にやりと笑って言う。
「私? あげるわけないじゃん。こうやってバレ速でナナにカウントされると思うとぞっとする。だいたい、本命チョコとか都市伝説だよね」
 そこで、冒頭の私のモノローグなのです。
「確かにね」
 ナナはフとわらってタブレットを仕舞った。
 殺伐としたバレ速を目にしているからじゃないけど、だいたい好きな男の子にチョコレートを渡して告白なんてのは、多分私だけじゃなくて大概の女の子は小学生の時に卒業してる。盛り上がるのは、バレンタインの日に仲良しの子同士で美味しくいただく友チョコってやつだ。
「ま、男子は大変だよね」
 ナナはにやにやしながら、学食を見渡した。
 怖い怖い。
「ああ、。チョコはあげないとしてもさ、ぬれ煎はどうなのよ」
 ナナがニヤッと笑って眼鏡を光らせながら言うものだから、私はぎくりとした。
 うん、わかってる。ナナには何一つ隠し事できないのは、わかってるんだ……。
「いやー、どうしようかなーって思って……」
 クラスメイトで日吉って子いるんだけどさ、っていうかランドセル背負ってる頃から馴染みではあるんだけどさ、中等部に上がってテニス部に入ってからえらくかっこよくなって。昔からのイメージだと日吉がモテるようになるなんて思ってもみなくて、まあなんていうかちょっと焦ってきちゃって……去年のバレンタインには柄にもなくあげたんだよね、彼の好物というぬれ煎を。
 私がため息をつくと、ナナがまた眼鏡のブリッジを持ち上げて、すっと深呼吸。
「日吉若。テニス部2年・正レギュラー、次期部長。家は古武術道場で、次男。好きな食べ物は、ぬれ煎餅。好きなタイプは清楚な人。テニス以外の特技、そろばん!」
 立て板に水、といった調子で話し出す。
「ちょ、ちょっと、ナナ、誰にしゃべってんのよ!そもそもそんなの知ってるって!」
「だいたい、すっごい変わってるよね、日吉って。、なんで好きなの」
「……変わってるって、ナナに言われたくないと思うよ、日吉も……」
 私はまた軽くため息をついた。
「日吉って、初等部の頃はちょっと変わったオカルトオタクとしか思ってなかったけどさ、遊びに誘っても『ソロバン塾がある』とかわけわかないこと言ってたしさ、けど確かにテニス部でレギュラーになってからめきめきかっこよくなったよねー」
 ナナはしみじみと言ってから、再度タブレットを取り出した。
「けど、ちょっと調子こいてね? 日吉!」
 去年のバレ速リストの画面をもう一度表示。
 日吉若、という名前の後に「21個」という数字があって、「備考:ぬれ煎」と書いてある。そう、去年のバレンタイン、日吉は21人の女子からぬれ煎をもらっているのだ。日吉のぬれ煎餅好きは有名らしい……。
「あいつ、も含めたこの21人に、一個もホワイトデーにお返ししてないんだよ!」
 そう、ナナのデータはバレ速に対応して3月14日のお返し具合のリストもあって、当然それはホワイトデー速報つまりホワ速。日吉のホワ速データは0なのである。
「まあ、いいんだけどさー」
「私たち、試食までしたのにねー」
 そう、ぬれ煎餅とやらを食べたことがなかった私は、通販でぬれせんを買って去年の2月に学食でナナと食べてみたっけ。で、『……悪くないけど、焼いた方が美味くね?』とナナが厨房のシェフにぬれせんを炙ってもらって、それで食べたらすっごい美味しかったことを思い出した。
「……あー思い出したら、炙りぬれ煎食べたくなった! とりあえず今年も銚子電鉄のぬれ煎餅注文しよ!」
 私が言うものだから、ナナが笑った。
 ま、こんなもんだよ、バレンタインなんてさ。
 で、ぬれ煎が届いたら……まあ、日吉にわけてあげないこともない……。
 
 そんな昼休みを終えて教室に戻ると、日吉はすでに席についている。
 日吉のすぐ後ろの席の私は、彼の形のいい後頭部をまじまじと眺めることができるというわけだ。
「ねえねえ、日吉」
 私は後ろから、つんつんと背中をつついた。
「ああ? なんだよ、
 不機嫌そうな日吉が振り返る。あ、日吉って、いつも大概ちょっと不機嫌そうなの。
「さっきナナと去年のぬれ煎のこと話してたら、思い出して食べたくなっちゃってさ、また注文しようと思うんだ。バレンタインで日吉にも持ってきてあげよっか?」
 そう言うと、普段からちょっと不機嫌そうな日吉の表情がぐっと険しくなった。
「言っとくけどな、バレンタインにぬれ煎、俺はいらないからな!」
 そして、そんなことを言うのだ。
 教室が一瞬静まり返る。
 どうしちゃったんだ、日吉!

 放課後、サロンで待ち合わせたナナは真剣な顔でタブレットの画面とにらめっこをしていた。
「……今日の日吉の、ぬれ煎いらない発言、オッズ比に大きく影響するね」
 ナナ、なんでもう知ってんの! 情報はやっ!
 なんていうツッコミを今さらする気もなくて、私は隣に座ってタブレットの画面を覗き込んだ。
 ナナはにやにやと意地悪そうに笑う。
「日吉、大きなピンチに陥ったとみたね」
「は? ピンチ?」
 私が聞き返すと、ナナは待ってましたと大きく深呼吸。
「これ、見て。去年の補正データ」
 去年のバレ速結果のテニス部のリストに、1列のデータが追加されている。
「こっちの数字は私が集めたバレ速データ。で、右の列の数字がテニス部独自でカウントしてるデータ。ちなみに去年のデータは会計の滝さんがカウントしてたらしいけど」
「へえ、部内でカウントしてるんだ。っていうか、女の子からもらったものをこんな集計とかしちゃってさ、ほんっと男子ってしょうがないねー」
 なんて言いながら興味深く補正データを見ると、ナナのデータと若干異なっていることに気付く。補正後の方が数が少ないのだ、特に鳳くんと日吉のが。日吉なんか、補正後は0になってる!
「これはね、テニス部内のカウントでは、ししゃもとぬれ煎はバレンタインのチョコにはカウントしないっていう内規になったからなんだよ」
 へええー! と思わず声を上げる。しかしぬれ煎はともかく、ししゃもとかあげちゃう子がいるんだ。
「ししゃもは、鳳くんの好物らしいからね」
 またもや、へええーと声を上げてしまう。
「さて」
 ナナは眼鏡のブリッジをくいと上げて、そしてにやっと笑う。
「そもそもテニス部レギュラーの2年の中では、日吉はバレンタインで分が悪いんだよね」
「甘いものがあんまり好きじゃなくて、ぬれ煎好きだから?」
 私が尋ねると、ナナはわかってないなーというように首を振った。
「そもそも、鳳くんは2月14日が誕生日。で、樺地くんは、跡部さんへのチョコを預かることも多いから、当然女子だってその時に樺地くんあてにも礼儀としてチョコを渡す。日吉以外の二人は、そもそも普通程度のモテ男子よりもかなりアドバンテージがあるんだよ」
 なるほど!
「くわえて、今日の日吉の、ぬれ煎いらない発言。これで、バレンタイン当日、日吉はチョコはおろかぬれ煎すらもらえない、正真正銘の0の確率が高くなったね」
 ナナはすっごい楽しそうに得意げ。
「なんであんな事言い出したのかなー。去年、ぬれ煎もらいすぎて食べ過ぎてきらいになったのかな?」
 ナナはまた首を横にふる。
「日吉は銚子電鉄のぬれ煎を買いつづけてるよ。相変わらず好物らしい」
 ナナって自分が好きでもない男子のことに、ほんっと無駄に詳しい……。
「じゃあなんで……」
「……あいつ、去年テニス部でぬれ煎がノーカン扱いになって、チョコ無し男とされたのがかなりショックだったみたいだよ」
 ナナはにやにやしながら眼鏡を外して、クリーナーで拭いた。
「へー、じゃあもしかして、ぬれ煎じゃなくてチョコをくれって事?」
「ま、そうじゃない?」
「……でも女子たちだって今更、日吉にチョコあげられないよねー」
 実はランドセル背負ってた頃、一度日吉にチョコを上げたことがあるんだ、私。
 返ってきた言葉は『俺、甘いもの好きじゃないから』。
 だから、ぬれ煎あげたんじゃんよ!


 そして私はナナの予想を念頭におきながら、またもや日吉の背中をつついてみた。
「ねえねえ、日吉」
「ああ?」
 例によって不機嫌そうな顔。
「バレンタインにぬれ煎はいらないって言ってたけどさ、チョコなら欲しいってこと?」
 私がさらりと言うと、日吉の顔は見る見る険しくなった。思い切り眉間にしわがよる。
「欲しい、とか言ってないだろ!」
「そんな、怒んなくてもいいじゃん。ぬれ煎とチョコだったら、どっちがいいのよ、結局」
「……だいたいバレンタインとか下らないんだよ! どっちもいらねーよ!」
 彼はそう言い捨てて、くるりと前を向いた。


「日吉は完璧終ったね」
 放課後のサロン、相変わらずナナは真剣な顔でタブレットを操作。
「いやー、私なりに援護したげようと思ったんだけどなー。ぬれ煎よりチョコがいいってあいつが言えば、チョコ獲得数増えるんじゃないかと」
もバカだねー。日吉がそんなこと言うわけないじゃん」
「そっか、でもまあ、チョコの数を競うなんてさ、くっだらない。日吉もそう思ってるんだよ、きっと」
 私が言うと、ナナは珍しく真顔で私を見て、『どうかな』ってつぶやいた。


 そして、翌日は2月14日。
 私とナナは休み時間ごとに、夢中でタブレットとにらめっこ。
 ナナのバレ速が炸裂だ。
 まるで選挙速報のように、エントリー者のチョコの数が増えていくデータは壮観。
 ほんと、一体どうやってナナはこんな情報を得ているのか不思議だけど、とにかく非常に興味深いデータではあるから目が離せない。
 
 速報の総仕上げである放課後、サロンでは私たちはもう最高潮に盛り上がる。
「うわ、やっぱり跡部さん、すご!」
「鳳くんも鉄板だなー」
「跡部さんと樺地くんの数はやっぱり比例してるよね」
「あっ、新顔の二桁男が出た! えっ、うちのクラスのやつじゃん、意外―」
 私とナナは炙ってもらったぬれ煎を手に、夢中も夢中。
 この時期になると、毎日チョコを食べ飽きてしょっぱいものが食べたくなるから、美味しいのなんのって。
 その時、傍らで人の気配。
 バレ速は一般公開はしてないから、私たちはあわてて会話を止めて顔を上げた。
 そこに立ってるのは日吉だった。
 炙りたてのぬれ煎の香りが、部活に行く途中の彼を引き寄せたのか。
「……あ、日吉、食べる? 炙ったやつだけど」
 お皿に乗せたぬれ煎を勧めた。
 彼は無言でひとかけを口に入れた。
「……一袋、日吉にあげようと思ったんだけど」
 言うと一瞬日吉は目を輝かせた。
「炙って食べてたらあまりに美味しくて、全部開封しちゃった。ごめんね」
「……別にいらないって言っただろ」
 彼はあからさまに落胆して、もうひとかけ口に入れた。
 確かにぬれ煎好きは変わらないみたい。
「去年のバレンタインのぬれ煎、他の子からももらってたんでしょ? お返しとかさ、日吉はしないの? いや、私はいいんだけどさ」
 ぬれ煎をかじりながら、思わず言うと、日吉はキッと私を睨んできた。
「……だいたいバレンタインって、ぬれ煎贈る日じゃないだろ! ぬれ煎のお返しなんて、いつどうやってすればいいかわかんねーだろ! ……ぬれ煎をチョコと同義に真に受けたりしたら、勘違いかもしれないだろ!」
 それだけ言うと、日吉はガタンと立ち上がって足早に去って行く。
 思いも寄らないリアクション。

 そんな日吉に目もくれず、ナナはタブレットのバレ速画面を私に示す。
 テニス部メンバーのリスト上では、日吉若はさんぜんと輝く0個。
「私の予想通り、今年はぬれ煎も0。やばいね、これは前代未聞だね」
 いつもの意地悪そうなニヤニヤ笑い。ナナは元々きれいな子だけど、こういう時にほんっとキラキラするよね。
「前代未聞?」
「歴代テニス部部長を務めた男子が中等部の3年間で、バレンタインチョコが0の時があるって言うのは氷帝テニス部始まって以来前代未聞ってこと。日吉の場合、去年はぬれ煎をカウントするかしないかで微妙なとこだったけど、今年は正真正銘0個だからね」
「……日吉、そういうの結構気にするのかな」
 ナナは軽くため息をつく。
が、バレンタインなんて都市伝説で下らないって言いながらも、気になるのと同じ程度には気にしてるんじゃない、日吉も」
「……私、別に気にしてない」
 口をとがらせてみせる。
「ちょっと意地張るのさえやめたら、好きな男の一世一代のピンチが救えるのに」
 ナナはバレ速データの更新をしながら、さらりと言う。
「はい、相変わらず日吉は0。日吉が今からテニス部の部室に到着して、今年の集計係の樺地くんと合流して集計が始まるまで、ざっと見積もって15分弱」
「……ていうか、ぬれ煎もチョコも私たちが持ってきたの食べちゃったし、売店も開いてないし、外に買いに行ってたら間に合わないし、もう私にはどうにもできないよ」
 私が震えた声で言うと、ナナはタブレットをバッグに仕舞った。
「今、動けば、間に合わせてあげられるよ。あんたが本気で日吉を好きならね」
1. 5秒くらい考えて思わず立ち上がると、ナナもにやりと笑って立ち上がった。


 私は10センチ四方ほどの箱を抱えてテニス部の部室に走った。
 時計を見ると、ナナが見積もった時間まであと2分足らず。
 テニス部のレギュラーメンバー用の部室なんてちょっと緊張するものだけど、今日ばかりは躊躇せずにインターホンを鳴らした。
 ほどなく扉を開けてくれるのは、樺地くん。
 奥には、予想どおり跡部さん宛がほとんどであろうチョコのプレゼントの山。
 よかった、まだカウントは始まってないみたい。
 部室内には、そうそうたるレギュラーメンバーがいて、突然の闖入者たる私に興味深そうに視線が向けられた。
 当然そのメンバーの中には、浮かない顔をした日吉もいて、少々驚いたように私を見ている。
「あの、日吉、ちょっといい?」
 私は、ぐい、と部室の中に入る。
 日吉があわてて奥から出てきた。
「お、おい、なんだよ、何の用だよ……」
 私は携えてきた箱を差し出した。
「何って、今日はバレンタインなんだから、用なんて決まってるじゃない」
 私は日吉を睨みつける。いつもとは、逆だ。
「……言っただろ、ぬれ煎はいらないって……」
「いいから、開けてみて!」
 テニス部メンバーが見守る中、日吉は受け取った箱のラッピングを開けた。
 中には、チョコレートコーティングをしたイチゴが二つ。
 あの時、サロンを立ち上がった私は、ナナにひっぱられて厨房のシェフのところへ駆け込まされた。このところ、ぬれ煎を炙ってもらって仲良くなってたシェフに、超特急で厨房内のチョコを湯煎してもらい、形のいいあまおうを二つもらってそれをチャプンと漬けてこれまた超特急で冷やしてもらったのだ。
 日吉は目を丸くして、そのチョコがけのイチゴと私を交互に見つめ、心なしか顔を赤くする。
「ぬれ煎じゃなくて、チョコだから。ちゃんと、真に受けて」
……」
 日吉の大きな掌の中で、イチゴが二つ。
 甘いものがそんなに好きじゃない日吉でも、これなら食べられるよね。
「おい、日吉」
 なんともいえない沈黙を破ったのは、キング・オブ・キングたる跡部さんの声。
「いつまでも持ってると、イチゴがぬるくなってチョコが溶けるぜ。今食って返事するか、冷やしておいて後で食って返事するかしろ。アーン?」
 奥の椅子に座って足を組み、優雅に笑って言うのだ。
「…………帰りに、美味かったかどうか言うから、待っとけ!……必ず待っとけよ!」
 日吉は部員たちをかきわけて、イチゴを部室の中の大きな冷蔵庫に仕舞いに行った。
 次期部長がバレンタインチョコ0個っていう史上初の出来事は、ひとまず回避できた模様。
 で、その後私と日吉がどうなったかって?
 それは、バレ速でご確認ください。

 以上、今年のバレンタイン速報でした。


2013年2月10日 「僕の私のバレンタイン速報」

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