「なんや、やっぱりサボりやったんかい」
修学旅行の二日目、この日は山門をかなり登るらしいと聞いた私は、生理痛ですなんてウソついて宿の部屋でDSをやっていた。そんな私の部屋にぶらりと現れたのは、忍足謙也。
「ん? 自分こそ」
私は床に座ったまま、笑いながらDSを閉じる。
謙也はポリポリと頭をかきながら、私の隣に腰を下ろした。
「みんなでたらったら歩くん、性にあわんわ」
謙也らしいなと、つい声を上げて笑った。
「自分、セーリツーです、なんて明らかにウソやろ。夕べフツーにみんなと風呂入ってたやん」
謙也ってば、何をしっかりチェックしてんだ。
「山登るん、だるいもん。うちはええとして、今日、謙也サボっとったら同じグループになった女子ががっかりするんちゃうん? 謙也『俺と同じグループになるん、競争率高いで』って、自慢げに言うてたやん」
謙也はモテる。
けど、きっと、彼が自分でイメージしてる自分のモテ像と、実際のそれはちょっと違うんだよね。
謙也は、確かにかっこいいけど、かわいいの。
明らかに隠しきれないモテたいアピールに、ストレートな性格の良さ。
女子たちには、そういうかわいさが、実はアピールしてる。
でも謙也自身は『クールでかっこいい俺様』って思ってるんだよね。
そのギャップがまたかわいい。
私がくすくす笑っていると、謙也はむっとした顔をする。
「なあ自分、いつも俺をちょいバカにしとるやろ。男と思てへんやろ」
そして、唐突にそんなことを言い出すのだ。
「ええ? 別にバカになんかしてへんやん。謙也はかっこええやん。めっさモテてるやん」
私はなだめるように言った。きっと、かわいい、なんて言うとすねるからね、口には出さない。
「……だから! なんでそないしてガキ扱いすんねん」
謙也は片膝をたてて、ちょっと私の事を睨む。
あらら。
かわいいって思ってるの、口にした事なくても伝わっちゃったのかな。
「してへんって」
こういうムキになるとこが、やっぱりかわいいって思われちゃうんじゃないねー、謙也は。
そう思いながらくすくす笑うと、窓から私たちの方に差し込んでいたはずの光が遮られる。
遮ったのは私の顔のすぐ前の謙也の体。
「言うとくけど、俺、こういうことかてできるんやで」
謙也は低い声でそう言うと、いきなり私の唇に彼のそれを押し付ける。
あらら。
そのまま私を部屋の畳に仰向けにして、上から睨みつけた。
何か言うのかな、と思っていると、もう一度キス。
さっきより落ち着いてる。さっきのは本当に『押し付けてくっつけた』ってだけだったけど、今度は私の下唇をそっと口に含み、舌でなぞった。しばらくそれを続けて、一瞬離れると、次は私の唇を舌先で開き、そのまま侵入してくる。
あらら。
謙也、どないしたん。
そう言いたいけど、唇は塞がれたままでそんな一言が出ない。
謙也の両手は畳について自分の体を支えるだけで、まずはキスをすることに一生懸命。
上手い、かどうかは別として、彼の舌と唇は、気持ちがよかった。
「……はぁ……っ」
唇を離し、大きく息をついた彼は少し難しい顔をして深呼吸をした後、私の片足を立てて膝の裏を撫でる。スカートは思い切りまくれあがった。
顔が近づいたと思ったら、今度は私の耳のあたりに顔を埋め、首筋や耳、鎖骨に唇をはわせる。
謙也の荒い息づかいが、やけに部屋に響いた。
「……謙也、どないしたん?」
さっきから言おうと思っていた言葉を口にして、私は少し驚いた。
自分の声が、少し震えている。熱があるみたいに。
「……そっちこそ、どないなん? え?」
こんな時だというのに、私はちょっと笑ってしまいそうになる。
謙也、どうしてそんなに得意げ。
一生懸命なくせに。
そういとこが、かわいいって言われちゃうんだよ、謙也。
けど、そんなことを言うと、こいつ、きっと拗ねてしまう。
なんて返事したらいいだろう。
「……ん……もう我慢できひん……」
あながち作っているわけでもない一言を、そっとささやく。
そうすると、謙也の両の目は熱く輝いた。
「“もう我慢できひん”って? どないして欲しいんや?」
浪速のスピードスター、焦らしなんて、本当は得意じゃないくせに。
くくくと笑ってしまいそうになる顔を見られまいと、私はぎゅっと謙也の胸に顔を埋める。
さあ、どんなことをしてもらおうか。
スピードスターはイラチだ。
多分、私のお願いごとは、あっというまに叶うだろう。
(了)