立海DEおかわり〜真田DEおかわり〜



 真田くんと付き合うようになって、初めてのキスをしたのは夏だった。そして、初めてのキスをしてから半年ほどたった今、ついに私たちは裸で抱き合うまでになった。
 早い話が、お互いにはじめてのセックスをするに至ったわけで。
 一年近くの時間をかけて、それなりにいろいろあったし、お互いの気持ちは確かめあってはいるのだけれど、何しろお互い初めて同士のこと。
 正直、今日のこの二人の行為は、どったんばったん大変だったと言わざるを得ない。
 勿論私は真田くんのことは大好きだから、彼に触れられたりキスをされたり抱きしめられたりするとどきどきして緊張するし、初めて素肌に触れられたりする感覚には嬉しくてどきどきして泣きそうな声を出してしまたりする。
 けれど。
 初めての今日の二人のこの行為、やっぱりスムーズではなくて、特にこのロケーションが自分の部屋だったりしたものだから、ベッドに横たわる角度によっては自分の机に無造作に放置した漫画が目に入っては「あー、あれ、真田くんに見られたら何か言われるかもしれないし、隠しといたほうがよかったかも」と思ったりして、気が散る場面も多々あったり。
 で、真田くんが真剣な顔で私の身体に触れたり、唇をよせたりするたび、「えっ、あ、真田くんでもそういうことするんだ、そりゃそうだよね」と思いながら、彼の指や舌の感触に気持ちが昂ぶったり。普段、絶対に目にすることのなかった、彼の表情や息遣いを感じたり。
 そして、彼を自分の身体の中に受け入れる痛みと衝撃と熱。
 何がなんだかわからないままに過ぎた時間は、正直なところ、時間にしてはそれほど長いものではなかった。
 まあつまり、彼は私の部屋に来てなんだかんだと話をしている時間はやや長かったものの、お互い今日は「その覚悟」だったものだから、キスをして抱きしめられてからは、一応予定のコース。お互いに素肌を触れ合って行為に至ってからは、まさに「どったんばったん」ではあったものの、10分もかからない程度のことだったと思う。あっ、誤解しないで! 私は別にわざわざ時間を計っていたわけじゃないの! 
 うちのお母さんが帰ってくる時間を気にしていたから、さりげなく時計を見ていただけ。
 嵐のようにすんでしまった行為だけど、私たちの大事な儀式なんだって思う。
 ふうーっと息を吐いていると、胡坐をかいている真田くんが大きな深呼吸をする。
 ふと彼を見ると、眉間にしわをよせた厳しい顔。
「……すまん、俺はもう、何が何だかわからず、我を失っていた」
 そして、彼にしたら珍しいそんな言葉で、私は思わず目を丸くする。
「えっ……あ、ああ、私も……」
 その言葉には同意なものだから、ひとまずそうやって相槌を打つ。
 すると、彼は額に手をあてて、ぶんぶんと首を振った。
「……そうじゃない、俺は……多分……俺ばかりが夢中になりすぎただろう」
 真田くんは片手で髪かき回した後、私を睨みつけるように見つめる。これまた珍しく猫背気味になったその体躯は、それでも腹筋に余計な脂肪など見つからない引き締まったものだった。彼の内面をそのまま映し出しているみたい。
「我を忘れるなど、この真田弦一郎にあってはならぬことなのにな、すまん……」
 えっ、真田くん、そこまで言わなくても!
 私は慌てて彼の片手をぎゅっとつかんだ。
「えっ、どうして? 私、真田くんに触れられて、すごくちゃんと気持ちよかった……。確かに、全部初めてのことだから、何が何だかわからないままだったけど……あの……もう一回、してみて?」
 つい私が言うと、彼は眉間のしわが緩み、ぎょっとしたように目が開く。
 次には顔が少し赤くなって、コホンとせきばらい。
「……そう言うのなら、仕方ないな。まあ、今度はお互い、もう少し落ち着いて臨めるだろう」
 今度はいきなり風紀委員長の時みたいな口調になって、つかんだ私の手を口元にひっぱって、親指の付け根を軽く噛んだ。
 まるで軽く電気が走ったような感覚で、私は声をあげて身体を振るわせる。
 その瞬間、上目遣いで私を睨むように見る真田くんと目が合った。
「……して欲しいことがあれば、その時にすぐに言うがいい」
 そう言いながら私の身体におおいかぶさった彼は、すでに熱くて。
 今度は、多分、時計を見る余裕なんてきっと、ない。

2013.6.23




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