ちなみに、俺が一年の時にちょっとつきあった女の子とは、俺が無理やり強引にキスしようとして怒られちゃって、なんだか女の子ってよくわかんねーし、めんどくせーって感じで終ったんだった。
今思えば、その時のキスは失敗に終ってよかったかも。
今日、センパイにされたあれがキスっていうモンなら、俺がしようとしてたのは、子犬がじゃれるようなモンだ。恥をかくところだったかもしれない。
まあ、俺の恥ずかしい過去はおいといて、とにかく俺はあれからセンパイのキスの感触が頭から離れなくて、午後いっぱい使いモンにならなかった。それくらいメチャクチャ気持ちのいいキスだったんだ。
かろうじて部活をきちんとこなした後、センパイが学校に残ってないか一生懸命探したけれど、やっぱりみつからない。携帯の番号を聞いておかなかったことを、またもや悔やんだ。
センパイのキスはすげー嬉しいけれど、あの時のセンパイの顔。
俺が見たかった顔と、ちょっと違う。
それが、どうしても気になった。
明日、教室まで走ればいいんだけど、明日までのちょっとの時間がものすごく長く感じる。
俺は自分の部屋のベッドに転がって悶絶。
大人っぽくてキレイなくせに、俺と話してるとすごく可愛い顔になる、あの笑顔。
俺はまたあれが見たかったんだ。
俺にキスをした後、今日はどうしてあんな風に遠い大人の人みたいな顔をしたんだろう。
翌日、俺は昼休みまでも待てなかった。
部活の朝練が終ると、自分の教室に寄りもしないで鞄を持ったまま直接センパイのクラスへ走る。ジャッカル先輩よりも早いくらいだった。
息を切らせながら廊下にさしかかると、丁度登校してきたばかりのセンパイが通りかかった。
「……どうしたの?」
驚いたように、それでも普段とそんなに変わらず俺を見る彼女に、俺はほっとするやら不安なのやら、どうにもよくわからない気分。
あわててやって来たものの、何を言っていいのかわからない。何も考えてなかったから。
「あ、あの、今日、昼一緒に食わね?」
なんとかそれだけを言う。
彼女は穏やかな顔で、首を横に振った。
「ううん、やめとく」
「他に約束あんの?」
「ないけど」
「だったら、いいじゃないスか」
いつもの調子の俺に、それでも彼女はいつもの笑顔は見せなかった。
「行かないよ。ごめん、だって私、赤也には冷めたから」
落ち着いた優しい『キレイなおねーさん』の笑顔で、彼女はさらりと言った。
彼女の言葉を理解しようと、俺は必死に頭で反芻する。冷めた? 俺に冷めた? 好きじゃなくなったってこと?
「……冷めたって、なんだよ、それ!」
俺は廊下の片隅で、思わず声を上げてしまった。
そんな俺を、彼女は子供でも見るようにちょっと困った顔で見つめる。
キレイだけど、なんだか見つめられてすくんでしまうような、そんな顔。
「……私が赤也を好きなこと赤也は知ってて、時々わざとからかったり意地悪してるんだっていうのはわかってたし、それは別にいいの」
センパイはそのキレイな髪を、鞄を持っていない方の手でもてあそんだ。
「だけど、そのために他の女の子の気持ちまで利用するっていうのは、やっぱり冷めるでしょ。恋の魔法は解けたの。おしまい」
それだけをはっきり言うと、彼女は教室へ向かおうとした。
「待てよ!」
俺に背を向ける彼女の腕を掴んで引き止めた。
「じゃあ、なんで昨日、あんなことしたんだよ!」
あんなビッグバン的キスを!
「……ああ、あれは、恋の終わりの記念。私も一回くらい意地悪したくなったしね」
俺が手を離すと、するりと抜け出て彼女は笑った。
それ以上、何も言うことが思いつかなくて、俺はとぼとぼと自分の教室に戻った。
俺はよく三年生の先輩から、もっと自己をコントロールできるよう努めよ、なんて言われるけれど、確かに俺は自分で自分のコントロールがつかない。
今、そのことを猛烈に実感している。
テレビで見たことのある、火山の噴火みたいだ。
俺は自分の中から、とにかくなんて名前をつけたらいいのかわからない熱くてどうしようもない気持ちがドロドロと止めようもなく溢れてくるのを感じる。それは俺の心を乱してしまって、必死で抑えようと思ってもまったく止まらない。
その気持ちは何なのか?
猛烈にどうしようもなく熱くて気分の悪いものだということしかわからないし、そういったものにどう対処したらいいのかさっぱりわからないのだ。
俺は、その気持ちを自分の知っている何かに一生懸命あてはめようとした。
今まで対応したことのある、自分で何とかできる何かに。
結局のところ、きっとこういうことなんだ。
俺は自分が納得できるように都合よく、気持ちを整理してみる。
センパイは、勝手に俺を好きになっておいて、勝手に冷めたなんてぬかす。
なんだよ、それ。ムカツク。
別にいいよ。
俺を好きな女の子なんて、他にもいる。
勝手に好きになって、勝手に冷めたらいいさ。
センパイが俺を好きなのは、なかなか悪い気分じゃなかった。でも冷めたっていうなら、もういいよ。
ただ、俺がなんだかムシャクシャしてるのは、ホラ、せっかく俺を好きだっていうキレイな年上の女の人だったんだからさ、一回くらいやっとけばよかったなってくらいのもんだ。
あんなにキスが上手いんだから、ちょっと誘えば軽くやらせてくれたに違いない。
結構スタイルもよかったし、キレイだし、な? もったいない話じゃねーか。
俺がムシャクシャしてイライラしてるのは、そんだけのことだ。
自分の部屋で、俺はもじゃもじゃ頭をかきまわしたりしてじたばたしながら、精一杯センパイのことを考えて、思い切りいやらしい想像なんかをしてみる。
どうだ、ザマーミロ。
めちゃくちゃイヤラシイことをしてやんぜ。想像を絶するような!
俺にキスをしやがったあの口だって使ってやるんだ。泣いたって許してやんねー。
ぜんぶ、頭の中でだけど。
俺はあの最高のキスを思い出しつつ想像力を総動員して妄想に耽ってみるが、そのつかのまの興奮も、今朝のセンパイの冷たい笑顔が頭をよぎってすぐに萎えてしまう。
その後に続くのは、俺が学食に誘ったりゲーセンに誘ったりしたときの、あの嬉しそうな笑顔。必死に頭から追い出そうとしてるのに!
どんなイヤラシイ想像よりも、あの笑顔のイメージが俺の胸をぐっと熱くした。
そして、あの笑顔がもう見れないのかと思うと、情けないことに涙が出そうになるのだ。
そんな風になっては、チクショウ俺は別になんともないぞ! センパイなんかメチャクチャにしてやるんだ! とイライラして、また振り出しに戻る。その繰り返し。
そんな、夜だった。
基本的に俺はバカだし、センパイのことなんてすぐに忘れられると思ったのに、俺はおかしくなる一方だった。まあ、もともとセンパイのことは考えがちではあったけれど、忘れようとすればするほどいろいろと考えてしまうのだ。
あの日、柳先輩と楽しそうに話していたセンパイ。
教室でもよく男と話してた。きっとセンパイを狙ってるヤツ、結構いるに違いない。ゲーセンでも知らないヤツが話しかけてたし。
そういえば、センパイはジャッカル先輩のことを『ジャッカル』なんて親しげに呼んでたっけ。センパイは結構ジャッカル先輩の好みだ。
とにかく学校中の男が、いやもうこの世の男のすべてが、センパイを狙ってるような気がして、俺は猛烈にジリジリする。
センパイのキスはものすごく気持ちよかった。あんなキス、一体誰としてたんだろ。俺への恋に冷めたセンパイはもしかしたら、今ごろ他の男を好きになって、そいつは俺みたいにバカバカしい気の持たせ方なんかしなくて、さっさとキスをしたりしてる? いや、ひょっとしたらキスだけじゃなくて……。チクショー! なんてイヤラシイんだこの野郎! テメー、センパイにさわんじゃねーよ! ブッコロス! 俺は思わずセンパイの仮想彼氏に毒づいた。
俺はもともとバカだったけど、いよいよ本物のどうしようもないバカになってしまったのかもしれない。
まあ、つまるところ、確実に俺のものになるはずの宝物を、わくわくしながらちょっと離れて見ていたみたいな感じだったワケ。仲良くしてた頃のセンパイってのは。
もう絶対に俺のものっていうその宝物を、俺はまだ触ったり箱から出したりしないで、ニヤニヤして眺めてた。サンタが持ってきてくれたプレゼントを、朝、枕もとでうきうきしながら見つめてるみたいに。
そんな宝物が、突然に『やっぱりナシ』って目の前からなくなっちまったわけだから、俺のダメージはでかい。
せっかくのサンタからもらったプレゼント、まだ箱から出してもいないうちに、『やっぱり赤也くんは悪い子だったので、これはヨソの良い子にあげることにします』って取り上げられちまったみたい。
ヨソの良い子って誰だよ!
すっかりバカになった俺は、今度は脳内サンタに思い切りつっこんでみる。
ヨソの良い子、誰か知んねーけど、潰す!
くそ、今年のクリスマスはまだまだ先だ。サンタ、間違えて早めに来てくんねーかな。そしたら、も一回センパイが俺を好きになってくれますようにって頼むのに。
そんな風にまったくどうしようもない気持ちを抱えたままの俺は、それでもやっぱり時々ジャッカル先輩に用事ってのはあって、三年の教室に顔を出さなければならない。
教室で俺と顔を合わせるセンパイは、もちろんちっとも怒ったような感じはなくて、すっげー普通に話してくれるんだけど、その笑顔は初めて会った時のそれで、つまり俺はもう彼女にとって『その他大勢』に過ぎないんだなと思い知らされる。そのあたりほんっとセンパイはハッキリしてて、決して俺の気を惹くためにわざと冷たくしてるとか、そんなカワイイもんじゃないんだ。まさに冷めたって感じ。容赦ねー。
だから彼女に会うたびに、俺はボディブローをくらったように更なるダメージを受けて帰ることになるのだった。
学食や購買で、それからも時々センパイをみかけるけれど、俺はやっぱり何も話しかけられない。『その他大勢』へのと同じ笑顔を向けられるのが、こわかったから。
いちいち言わなくてもわかってると思ったんだ。
俺、すっげーセンパイのこと好きだったもん。
時々俺がわざと冷たくしたり意地悪をしたりしても、それでも怒ったりしなくて俺を好きでいてくれるのが、めちゃくちゃ嬉しかったんだ。
ずっとそんな風だと思ってたのに。
俺はやっぱりわがままなガキで、最後にバカみたいなやきもちをやいちまって、全てをなくしてしまった。
すっかり恋を失ってヘコんだ俺は、センパイに言われたからってわけじゃないけどあの時練習を見に来させたクラスメイトの女の子に悪い事したなと、改めて思い出した。
俺は、人から好かれて嬉しくなることにばかり夢中で、自分が誰かを好きになってそれで辛い思いをしたりすることを、リアルに考えたことがなかったんだ。
センパイに冷められるのも仕方がない。
ある日、部屋の本棚の奥でくしゃくしゃになっていた英語の課題のプリントを見つけた。
初めてセンパイと会った日に、センパイにやってもらった英作文。
それを引っ張り出してきてギュッギュッとシワを伸ばして、部屋でため息をつきながらじっと眺める。
そして、俺はこんなんじゃ、すっかりダメになってしまう! と改めて思った。くしゃくしゃの英語のプリントを見てため息をつくなんて、もう末期だ。俺はつねづねバカっぽいキャラで通してきたけど、これでは本物のふぬけたバカになってしまう。
俺はそのプリントを折りたたみながら、大きく深呼吸をしてバカな頭を必死で動かした。
センパイと俺が一緒に飯を食ったりして仲良くしてた頃、そりゃ俺たちはちゃんとつきあってはいなかったけど、なんていうかそこには『恋』が確実にあったと思う。
すっかり俺がセンパイから放り出されちまった今、あの時の二人の間の『恋』は迷い犬みたいに、どこかをふらふらと漂っているような気がするんだ。かわいそうな俺たちの『恋』! おーヨチヨチ待ってろよ、なんとか俺がもう一度つかまえてやんぜ!
俺は内心の掛け声だけは勇ましく、昼休みにセンパイの教室に向かった。
「センパイ!」
いつもの廊下側の窓を開けて俺が叫ぶと、まだ教科書やなんかを片付けてる途中のセンパイが驚いた顔で顔を上げた。
「、行きませんか!」
カッと目を見開いて必死に訴えかける俺。まさに、訴えかけるって言葉がぴったり。直訴。
「えっ? どうしたの?」
普通なら多分断られてたと思う。でも俺の尋常ならぬ様に、ちょっと心配そうに俺を見つめる彼女は断りの言葉を飲み込んだようだ。
俺の何か言いたげな様子を察してか、彼女は学食には向かわず、俺たちはいつかの日のように購買でパンを買って外に出た。太陽の光が差すなか、俺たちは涼しい風を求めて木陰へとたどり着いた。俺は暑さのせいだけじゃなくて、脇の辺りにイヤな汗をかいている。
それにしても、センパイから終了宣言をされてからこっち、俺はまったく身を焼かれるような気分でいるのに、センパイときたらまったく変わりない。もともとわかりやすいヒトなだけに、うわ、マジできっぱり俺に冷めてる! っていうのがありありとわかって、ほんと切ねー。女のヒトって、こんなもん? まったく俺には難しすぎる。
「じゃ、丁度陰になってるし、そこのベンチで食べよっか」
彼女は俺にキスをしたあのベンチを提案するけれど、俺は少し考えて、芝生の方を指した。
「ええと、いや、そっちで」
「あ、そう?」
俺は芝生の上に正座をした。
「すんません、なんかこう、いつものクセで正座の方が落ち着くんス」
いつものクセってのは、真田副部長や柳先輩から説教される時のね。
つまりそういう、反省モードの時のクセ。
センパイは不思議そうにしながらも、俺の前にゆっくりと腰を下ろした。
「あの……」
俺は右手を、自分の左胸のあたりに当ててぐっと押さえた。
「センパイ、あの時のこと、ごめんなさい。何て言ったらいいのかさっぱりわかんねーけど、俺がわがままでガキだからそれで人を傷つけてしまったっていうのだけは、今ならわかる。俺もめちゃめちゃヘコんでるから」
前に座っているセンパイの顔がまっすぐ見られなくて、俺はだんだん頭が下がってしまう。とりあえず俺の前にセンパイのスカートと脚は見えるから、彼女がまだそこにいて話を聞いてくれてるってことだけは確認できた。
「俺はちゃんと言ったことなかったけど、センパイのこと、めちゃくちゃ好きだったし今も好きです。センパイもきっと俺を好きなんだって思うと、毎日嬉しくて浮かれて浮かれてしょうがなかったんス。だから、センパイからもう俺を好きじゃないって言われて、俺は目の前が真っ暗になってどーしたらいいかわかんなくなっちまって……」
ヤバイ、まったくどうしたらいいかわかんねー。
何て言ったらいいんだろう。
俺は膝の上で握り締めていた拳を開いて、また左の胸のあたりをぎゅっと押さえた。
「……前ほどじゃなくてもいいんで、もう一回ちょっとくらい俺を好きになってもらえたらなあって思うんスけど……。だめっスかね。俺、その……」
ぐいぐいと胸を押さえながら俺は続けた。
「俺は本当に良い子になります。ああ、くそっ、なんて言ったらいいんだ! ……ほんと、前みたいに一緒に昼飯食ったりゲーセン行ったりして、俺に笑いかけてくれたらいいんスよ。そうやってセンパイが俺の事を好きでいてくれて、そばにいてくれたら、俺はもう一生童貞でもいいっス」
言ってから、俺は胸をかきむしった。チクショウ、俺は一体何を言ってるんだ! こんなこと言ったら、かえって俺がしょっちゅうイヤラシイことばかり考えてるみてーじゃねーか! いや、当たらずとも遠からずだけど、こんな時に言うことじゃねーだろ! メチャクチャだ!
俺の頭は情けなさでだんだんと下がっていって、地面にキスをしそうなくらいだ。
「……ところで、それ、なあに?」
うなだれた俺の顔をのぞきこむようにして、センパイが言った。
「は?」
俺が顔を上げると、彼女は俺の左胸を指差した。
「その、胸に貼ってあるの」
さっきから俺が押さえたりかきむしったりしていたところだ。
「あ、これ……」
シャツの上からセロテープで胸のあたりに貼り付けてあるもの。
俺はあわててそれを手で押さえて隠して、それでも彼女の視線はゆるがないので、渋々とテープをはがして見せた。
「……心臓の上に、お守りっス」
小さく小さく丸めて折りたたんだ、あの時の英語の課題のプリントだ。
中にはセンパイの丁寧な筆記体の文字。俺が持っている、唯一のセンパイのもの。
彼女はそれを手に取って広げると、気まずそうに苦笑い。
「まだ持ってたんだ。結構間違えてるからもう恥ずかしいし、捨ててよ」
「嫌っス」
俺はあわててその宝物を彼女から取り返すと、もう一度胸に貼り付けた。
そんな俺を見て、彼女はくすっと笑う。
「……そんなのいつまでも持ってるなんて、なんだか情けない」
「自分でもそう思うんスよ。でも捨てられないんだから、仕方ないっしょ」
「こんなことするのも、かっこ悪いね」
「けど、他にどうしたらいいか、わかんないんス。俺、バカだから」
俺がまたうなだれると、センパイはすっと手を伸ばして、それは今度はネクタイじゃなくて俺の髪に差し入れられた。
「赤也がこんなダサダサな子だって、私、知らなかった」
そう言うと、俺の髪を優しくかきまわす。その感触に、俺はたまらなくドキドキしてしまう。
「でも、そういうところ、結構好きになった」
俺は顔を上げてセンパイを見た。照れくさそうな、嬉しそうな、笑顔。俺にだけ向けられる笑顔。
どこかにふらふらと漂って迷子になっていた『恋』が、まるで新しい友達を連れて戻ってきたみたいだ。
俺は、ちょっと泣きそう。
「あの……俺の彼女になってもらえますか」
唐突なのは分かってるけど、今度はもう絶対に逃したくないんだ。
「うん」
そんな突然の申し出にもかかわらず、彼女はあの照れたような、可愛い笑顔で小さく肯いた。そして俺の髪を触っていた手で、今度は俺の胸に貼ったプリントをつつく。
「こちらこそ、よろしくお願いします。一生童貞宣言をした、切原赤也くん」
そしてそう言ってクスクスと笑う。
俺は手元のパンの袋を破ってがぶりとかじった。
「……アレは別に、宣言じゃないスよ! 場合によってはそれもやぶさかではない覚悟であるというか……。……まあ……いいっスけど……」
俺はため息をついてもぐもぐとパンを咀嚼する。
もしかしたら、本当はセンパイも結構意地悪好きで、俺はこれまでの仕返しをされるのかも。
でも、いいんだ。
こうやって芝生の上で、ママゴトみたいに座って向かい合ってパンを食べてるだけで、俺はメチャクチャ幸せだから。
彼女が俺に恋をするっていう俺の大予言はだいたいのところ、当たったわけだしね。
(了)
「恋の大予言」
<タイトル引用>
恋の大予言:作詞, 阿久悠 作曲, 井上忠夫 (フィンガー5)
2008.2.20