● 恋の現場監督  ●

「違うだろ、そこはこっちの公式を使うんだ。ほら、これにあてはめてやってみろ」
 俺は、とっくに終った自分の課題のノートを閉じて、一方さっぱり進んでいないのノートをコンコンとペンで叩いた。
「うーん……」
 つきあいはじめたばかりの可愛らしい恋人は、眉間にしわをよせて唸るばかり。
「せっかくこうやって一緒に宿題やってるんだから、乾のを写させてくれたら早いんだけど」
 は難しい顔をしたまま、懇願するように俺を見上げる。
「だめだよ。自分で考えないと意味がないだろう? が自分でできるようにならないと。だから、俺がこうやって教えてるんだ」
 彼女を諭すように俺が言うと、はカツンとペンを置いてバシン! と机を手のひらで叩いた。
「カット、カット、カァ〜〜〜ット!」
 そして、厳しい顔をして叫ぶのだ。
 俺はハッとして身を縮こまらせる。
「乾!」
 は鞄から手帳を出して、俺の前にバンッと広げた。
「この前、打ち合わせたでしょう! お互い名前で呼び合うようになるのは、夏休み明けから!」
 が広げた手帳のページには、俺と彼女のこれからの予定が書かれている。
 彼女の構想では、俺とは夏休みに初めてのキスをして、それからうれしはずかしお互い名前で呼び合うようになる。そして冬休み頃に、二人は一線をこえるのであった……。
 という設定らしい。
 ちなみに、その『冬休み頃』という俺としては最も興味深いXデーについてだが、当初はロマンティックにクリスマスイブだろうと彼女は言い張っていた。が、やはりその頃はまだ休み前でせわしない、ということで、正月あけの休みあたりがよかろうと言い出した。
 先延ばしか!
 といささかがっかりした俺は、そういうのって普通は夏休みっていう感じがしないか、とやんわり提案してみた。すると彼女は、『夏は暑苦しいじゃない。冬の寒いころに、あっためあうのがいい感じなんだよ』なんて意味深に笑ってみせて、俺は、むむぅさすがだな、と彼女の大人ぶりに少々感服したのだった。
 まあ、彼女はそういった感じなので、俺がうっかり彼女を『』と呼んでしまったことも聞き逃さない、敏腕の映画監督といった風なわけだ。
「ああ……すまない。今、って呼んでしまっていたか……。うん、
 俺はあわてて言い直す。
「そうそう、まだお互い苗字で呼ぶの。夏まではね」
 満足そうな彼女。
 しかし、1年の頃からなじみの彼女と今やっとつきあうようになって、俺は嬉しくて心の中では、、と名前で呼んでいるのだがそれはそれでしっくりくるのでどうも実際にもそう呼んでしまいがちなのだ。
「……でも、俺はって呼ぶ方がしっくりくるんだけどな」
 なので、思っていることをそのまま言ってみた。
「えーーー!」
 すると彼女は落胆したような声。
「照れくさくて名前なんかで呼べないよ! っていう感じじゃないの!?」
「あー……うん、がっかりさせて悪いけど、って呼ぶの、そんなに照れくさくはない」
「そーなの……」
 彼女は心底がっかりしたように、机に突っ伏した。
「あー、だけど、。俺、きっとから名前で呼ばれたりするの、多分すごくドキドキすると思うよ。はずかしくてさ。だから、夏にお互いに名前で呼ぶようになるの、恥ずかしいけど楽しみだな。ま、それまではお互い苗字でさらっといっとくか」
 俺があわてて言うと、彼女はゆっくり顔を起こして嬉しそうに笑う。
 ああの、こういうところが本当に面白い。
 きれいな顔してるのに、すごく口を大きくあけて笑ったりする。
 いろんな顔をして、面白いんだ。
「うん、そうだよね。乾を、さだはる、なんて呼ぶなんてねー。ちょっとなかなかないよね」
 なにしろ俺は女の子とつきあうのはこれが初めてだから、女の子が一体何を考えてて、何が嬉しくて、何で機嫌をそこねるのかさっぱりわからない。
 俺はからは怒られっぱなしなのである。
 しかし、のこんな設定決めは、果たして一般的女子のありかたとしてはどうなのか、はなはだしく疑問ではあるが。
 はずっと年上の男とばかりつきあってきたから、俺みたいな同級生のガキとの恋愛は初めてなのだ。だからなのかわからないが、同級生との恋、というものに過分な期待を抱いているようだ。当初は、彼女が構想する韓流映画顔負けのベタな設定に俺は少々戸惑ってしまったが、まあ面白そうだしいいかなと思って、従うことにした。
「うん、まあその件はそういうことでだな。で、、その問題はこの公式だぞ」
「あ、うーん……」
 そして、振り出しに戻るのだった。
 そんなわけで、なんとかの宿題もすませて、俺は部活に向かう。
「じゃあな」
「うん、部活、頑張ってね」
 はさらりと言って、友達と連れ立って校門に向かう。
 もともと俺と彼女は以前からの友人だということもあってか、はそんなにべったりとしてなくて、俺が部活を終えるのを待っているだとか練習をじっと見ているとかいうことはほとんどない。
 最初はちょっと物足りないかなとも思ったけれど、そもそも自分の時間を大切にする俺には、それくらいの方がやりやすいと気付いた。女の子とつきあうということは、もっともっと予定を合わせたり機嫌を伺ったり、大変なのかと思っていたから、ちょっとした発見だった。
 を見てると、女同士の友達も不思議だと思う。
 彼女は友人と仲が良くて、義理をかかさぬ奴だなと思うんだけど、俺が突然思い立って帰りにを誘ったりすると、『あ、今日、一緒に帰れるの? じゃあ美有とバーゲン行くの断るわー』と、あっさり女友達との約束はキャンセルする。一方彼女の友達が、自分の彼氏とのことでとの約束をすっぽかすとかもざら。
 俺なんかからすると、おいおいどうなってるんだ、と思うけど彼女たちにはそれはそれできちんと義理が通ってるようで、全く仲がこじれることはない。
 女の子のことはよくわからないけれど、それでもやっぱりとつきあうのは楽しい。
 ずっと好きだった子だから、なおさらなんだけれど。

「乾ー!」
 部室で着替えをしていると、英二が明るい声を上げて隣にやってきた。
「これ、ちゃんに返しといてよ」
 紙袋を俺に寄越す。
「借りてたCDと、貸す約束してたヤツ。遅くなってゴメンーって言っといて」
「ああ、わかった。預かっておく」
 俺は英二が寄越したそのピンク色の紙袋を鞄にしまった。
「それにしてもさ、乾がちゃんを好きらしいって噂は聞いてたけど、ホントに付き合うようになるとは思わなかったなー。どんな手を使ったんだよ〜」
 からかうように言う英二に俺は眉をひそめた。俺がどんな手をつかってとつきあうようになったか、それは言えない。構想はその着想からすると約2年、具体的プランを練るのに約2ヶ月といったところだからな。
「ま、最初は、意外〜って思ったけど、結構似合いだし頑張ってよね〜。ニシシ!」
 英二は屈託なく笑って俺の背中をバンバンとたたいた。
 そうか、似合いか。
 俺は思わずニヤけてしまう。



「そうそう、
 翌日、教室でピンクの紙袋を手にの名を呼んだ。
「うん?」
 自分の席で顔を上げる彼女。
「英二が、これお前にって。遅くなって悪かったって言ってたぞ」
 は手渡した紙袋を開けて、顔を明るくした。
「あ、ヤッター、これ聴きたかったんだー。嬉しい!」
 がさがさと紙袋をいじりながら、は本当に嬉しそうな顔をする。
「エージくんて、お姉さんがたくさんいるんだっけ? だからこんなカワイイ紙袋なんか持ってるのかなー?」
 おかしそうに笑って言う。
「うん、多分そうだろうな。……時に、
「なあに?」
「一応尋ねるが、英二がのことをちゃんって呼ぶのは、かまわないのか?」
「えっ、うん、だって前からそうだもん」
「で、も英二のことをエージくんと呼ぶ、と」
「うん、そう」
 俺は少々釈然としなかった。
「じゃあ、俺も、じゃなくてちゃん、と呼ぶのはいいのか」
「あ、それはダメ」
 なんでだ!
「あのね、とにかく、それはそれ、これはこれなの。エージくんは、エージくんとちゃんでいいの。そういうものだから。乾は、乾となの。そういうものなの」
 ううむ、さっぱりわからん。
 俺は眉間に手を当てて考え込んでしまう。
「……乾、もしかして妬いてる!?」
 彼女の、少しトーンの上がった声に俺が顔を上げると、彼女の目がキラキラ輝いているのが見えた。
「ああ? いや、別に英二にはそんな心配はしていない。そういうキャラじゃないだろ」
 俺がそう言うと、彼女はあからさまにがっかりするのだ。
「あ、そう……」
 そういえば、と俺は思い出した。
 は、結構やきもちやきなのだ。以前、が高等部の彼とつきあっていた時分は、彼が同級生や先輩に目移りするんじゃないかとよく友人にぐちっていたものだ。
 今のところ、との打ち合わせで提示されている設定書にはないが、同級生との恋の一連において、もしかすると俺がやきもちをやくという演出も期待されているのかもしれない。
「……英二は大丈夫だと思うが、を好きだっていう男は多いから、俺はいつもハラハラしてるけどね」
 俺はあわてて付け足した。
 すると、はぱあっと嬉しそうな顔をするのだ。
「そう!? でも、乾は同じクラスでいつも一緒にいるんだし、大丈夫だから!」
 思わず吹き出しそうになってしまうのだが、多分笑ったら激しく怒られるだろうと、俺は生真面目な顔でうんうんと肯いて自分の席についた。
 俺の席の横の開いた窓からは、心地よい風。
 ああ、今日はと過ごしたいな。
 ふと俺はしみじみとそう思った。
 今日は木曜日、部活のない日で、いつもなら二人で宿題をやった後そのまま一緒に帰るだけなのだが、それだけじゃなくて二人の時間を過ごしたいなあ。



「寄り道して、水族館に行かないか」
 帰り支度をしながら、俺はに提案した。
 彼女は一瞬目を丸くするが、嬉しそうに顔をほころばせる。
「うん、いいね。でも乾、前に美術館に行きたいって言ってなかった?」
「美術館は、休みの日に一日かけてゆっくりがいいよ。一日学校で勉強した後は、脳をリラックスさせるのに水族館がいい」
「へー、そういうものなの? 私にはどっちも一緒だなー」
 そう言いながらも、は嬉しそうにいそいそとノートやなんかを鞄に仕舞う。
 夏本番寸前の、蒸し暑い夕暮れを、俺とは電車を乗り継いで水族館に到着した。
 平日の夕方の水族館は人も少なくて、ひんやりと心地よい。
 うすぐらい館内に入ると、俺はそうっとの手を握った。
 今のところの設定上、俺とは『手をつなぐ』までは問題ないのだ。
 はぎゅっと俺の手を握り返してくる。
 そして、ここでは俺はについて意外な発見をした。
「……乾、ここはもういいじゃん」
 俺がジンベイザメなんかの水槽の前でじっと見ていると、彼女はぎゅうぎゅうと手を引っ張るのだ。ああ、ラッコが見たいんだな、と俺はさして気にもせず彼女の行きたいままに進んでいたら、イワシの水槽の前ではほううっと大きく息をつく。
「あああ、こわかった。ごめん、乾。私、閉所恐怖症気味で、あとどうやら大きい魚ってこわいみたい」
 彼女が言うに、子供のころにうっかりテレビで見たジョーズシリーズがひどく恐かったらしい。なるほど、それで彼女の手は妙に汗ばんでいたのか。
「こういのは平気なの」
 と、華麗に泳ぐイワシの水槽に、うっとりと見入っていた。
「ああでもこのイワシは、他の大きな魚の飼料になるんだよな。適宜入れ替えられる」
 淡々と言うと、彼女はギッと俺を睨みつける。
「嫌なこと言わないでよねー、乾!」
 それでも、彼女は俺の手を離さないまま、クラゲだとか、ちょっとショボい感じの水槽を楽しげに見てまわる。
「あ、これこれ」
 出口近くの小さな水槽では足を止めた。
「かわいーね」
 クリオネだ。
 透き通った体で、スイスイと立ち泳ぎをするように水の中を滑る不思議な生物。
 は体をかがめて水槽を見つめた。
 強く握っていた俺の手を離したかと思うと、その手を俺の腕にからめぎゅうっと俺を引っ張って隣に身を寄せる。
 俺はちょっとドキッとした。
 体育祭の二人三脚以来の接近だ。
 小さなクリオネの水槽の前で、ぎゅっと俺に押し付けられるの柔らかい体。
 はクリオネをみつめたまま静かに言う。
「ねえ、今日は誘ってくれてありがとう。大きな魚は苦手だけど、確かに一日の終わりに水族館っていいね。ちょっと落ち着く」
 は笑って俺を見た。
 水族館のかすかなライトに照らされた彼女の横顔は、本当にきれいだ。
「ああ、こういう静かな環境と照明は、交感神経を鎮めてリラックスさせる効果があるからな」
 俺は妙にドキドキしてしまうのを隠そうと、努めて冷静に言った。
「そう。乾はなんでも知ってるねー。私はそういうのよくわからないけど、ちょっと暗くてずっと手をつないでいられて楽しかった」
 彼女はくすくす笑いながら俺の耳元でささやく。
 そして、そのまま俺の耳に柔らかい唇でそうっとキスをするのだ。
 足元から耳たぶに向かって、カアッと血がのぼる音が館内に響くんじゃないかとはらはらするくらいだった。
「……そういうのは、設定破りじゃないのか」
 俺はドキドキ騒ぐ心臓を必死で押さえながら言った。
「ん? ああ、これくらいは演出の一環だからいいの」
 は小さく笑いながら言う。
 演出の一環にしても、俺にとっては刺激的すぎるよ、
 なにしろ俺は、童貞に果てしなく近い男なんだからね。
 俺の顔のすぐそばにある、彼女のふっくらとした唇に、俺は今すぐキスをしたくて仕方がない。
 けれど、そんな勇気はなくて思わず大きな溜め息が漏れ出た。
「どーしたの?」
 は不思議そうな顔をする。
 閉館時間を知らせる放送が流れ、俺たちはゆっくりと出口に足をむけた。
「うーん……はさ」
 水族館を出て歩きながら、俺は言葉を選びながら話す。
「どうして、キスをするのは夏休み、だとか決めたがる? その……俺ががっついてると思われるのも何なんだが、まあ、そういうのもなきにしもあらずではあるんだが、ええと……つまり、キスをしたり、俺がって呼ぶようになったりするのも、自然にそういう感じになった時でいいんじゃないかと思うんだ。正直……俺はさっき、にキスをしたいと思ったけど、もしも俺がそうしたら、は嫌だったか?」
 真剣に尋ねる俺の言葉に、はしばらく考え込んだ。
「……嫌じゃないよ」
「だろ?」
「だけど……」
 彼女はふと妙に切なそうな表情をする。
 俺はまた心臓をつかまれたような気持ちになった。女の子はどうしてこんなにいろんな顔をするのだろう。ずるいんじゃないか。
「なんでも楽しいことをどんどんしてしまうと、早く終わってしまいそうでこわいの」
 それだけを、静かに言うのだ。
「早く夏休みがこないかなあ、とか、早くクリスマスがこないかなあ、とか、そうやってわくわくしてるうちは楽しいけど、終っちゃうと寂しいでしょ」
 ちょっとうつむいて言う彼女を、俺はじっと見つめた。
 15の誕生日にたった一度、彼女を抱いた時のことを思い出す。
 ちょっと口が悪くて、いくつも恋を知っていて、大人びている彼女は、俺の腕の中で意外なくらい小さくて、やっぱり女の子なんだなあと思った。正直なところ、俺は取って食われるかと少々びびっていたから。ああ、取って食われるんだとしても俺の嗜好としてはそれはそれで一向に構わないんだけどね。
 まあそれはおいといて、女の子ってか弱いから、だから守ってやらないといけないなあと、改めて思ったんだった。あの時。
 が強気なことを言ったり俺に怒ったりするのも、きっと何かから自分を守るためなのだから。
 が何かをこわがってるなら、やっぱり俺が守ってやらなくちゃいけない。
、俺は夏休みでもクリスマスでもないから、終らないよ」
 俺が言うと、は伏せていた顔を上げる。大きな目をじっと見開いて俺を見た。
「うーん、終らないよってのはウソになるな。終りのないものなんて、この世にないから。だったら、俺は精一杯長生きするよ。例えば千年くらいね。どうだ? それでも足りないか?」
 は目を丸くして俺を見つめた後、少し顔を赤くして、俺の制服の裾をぎゅっと握りしめた。
 ゆっくりと歩き出す。
「……乾汁、飲んだら長生きするの?」
「ああ、もちろん。健康に良いあらゆるものが入ってるからな。おすすめだぞ。も毎日飲むといい」
「うーん、遠慮しとく」
 うつむいたままおかしそうに笑った。
「わかってないなあ、みんな、不味いやつばかりをクローズアップするが、野菜生活顔負けに旨い、一般向けバージョンもあるんだぞ、乾汁は」
「マジー?」
「ほんとだって」
 おかしそうに笑う彼女がかわいらしくて、俺は思わずきゅっと彼女の肩を抱いた。は一瞬驚いて、でもうれしそうに口元をほころばせると、俺の胸にそっと頬をくっつけた。そして、次の瞬間。
「カット、カットォーーー!」
 そう言いながら、ぽんっと俺の胸をつきはなす。
「設定では、こういうのも夏以降」
「……『手をつなぐ』の延長にあたる演出の範囲内じゃないのか?」
 俺が問うと、彼女は首を横にふった。
「バナナはおやつにはいりません、じゃないけど、これは演出の範囲内じゃありません」 
 笑って言うと、その細い腕を俺の手にからめてくるのだった。
「乾、長生きするんでしょ? ずっと一緒にいられる。だったら、ゆっくりでいいじゃない。おいしいもの、楽しいものは、後でゆっくり。乾が長生きしてくれるなら、安心してわくわく楽しみにできる」
 なんでもないように言う彼女は、本当にほっとしたような笑顔。
 女の子のことはよくわからないけれど、俺の何かが、彼女を安心させることができたのなら、まあいいか。
 俺はため息をつきつつも、笑った。
の設定書は冬までしかできてないだろ。その先は俺にも考えさせてくれ」
 ハリウッド映画のごとくどんどん続編をね。が終りの心配なんかしなくてもすむように。
「んん? いいけど、例えばどんな?」
 そう聞き返してくるものだから、俺は少し考え込んでしまった。
「うーん、そうだな……例えば、マニアックなすごいプレイをするとかだな」
 俺が言うと、は手をたたいて笑った。
「やっぱり乾ってヘンタイだったんだ!」
 俺もつられて笑う。
「やっぱりって、何だよ。今のはウケを狙った冗談だ。本気にするな」
「いやー、どうだかー」
 二人で話をしながら歩いているといつのまにか駅。
 きっと、いろんな事が解禁になるはずの夏もあっと言う間にやってくるんだろう。
 何も、こわいことはない。
 いつでも俺は、彼女にそう言ってやろう。

(了)
「恋の現場監督」
2008,6,8

<参考>
ザ・ハイロウズ「千年メダル」
岡村靖幸「カルアミルク」


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